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書籍『いつだって一期一会~テレビカメラマン新沼隆朗』(武蔵野書房 刊)より

このページは、書籍『いつだって一期一会~テレビカメラマン新沼隆朗』(武蔵野書房 刊)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・鈴木圭氏

初めてレースを走る三歳馬にとって、最も大切なのは「走ることはこんなに楽しいんだよ」と教え込む事だという。勝つためだけに激しくムチ打たれたり、レース途中で嫌な目にあったりした新馬は、競馬を「辛い事」と覚えてしまって、二度と己の能力を全開出来なくなってしまう。優れた調教師や騎手に出会えた馬は幸せである。彼らに「走る楽しさ」を教えられた馬は、生涯を通じて、前向きに精一杯走り続ける事が出来る。


昭和六一年、僕はNHKに入局し、赴任先の仙台で新沼さんと出会った。それから四年間、二度の海外ロケを含めて、七本の番組を共に作った。僕は「幸せな三歳馬」だった。(中略)一四年間、走り続けていられるのは、新沼さんのおかげである。


・寺園慎一氏

ホントは陰でさまざまな努力を重ねているにも関わらず、決してそれを人に見せず、地道な努力とは無縁の直感的な天才タイプの人間として振舞うことを美学としていた人だったのはないかと思います。


・ベッドにたった一人横たわる患者を、大勢の人間が取り囲んでいます。その神聖なはずの現場に、医師達がポケットに手を突っ込み、肩いからせて入って行ったというのです。


「どうして、そんなことが出来るのか」と、厳しい口調のお嬢さんに、新沼さんが返してきたのは、さらに厳しい調子の叱責の言葉でした。(中略)


「医者達は、自分たちの無力のために、毎日毎日死んでいく患者と向き合わざるをえなくて、そうでもしなければ、やってられないのかもしれないんだよ。ポケットに手を突っ込んで、必死に何かに耐えようとしているかもしれないじゃないか。どうして、おまえは物事をそう表面的にしか見られないんだ」(中略)


ロケの現場で、新沼さんが何よりも許さなかったのは、勝手な思い込みと、起こっている出来事の浅薄な「解釈」でした。延々と回り続けるカメラが映していたのは、ふとした瞬間の人間の切なさと愛しさ(かなしさ)だった気がします。どんな時でも、人間が抱える切なさを信じ、愛していたのだと思います。


・お父さんへ------「あとがき」に代えて
有山一子(中略)

一番よく言われていたのはどんなことだったかしら。「すべての事には裏と表がある、表だけ見ていたらダメだ」とか、「モノを頼まれたらその頼んだ人が何を欲しているのか想像して行動しなさい」とか、小さい頃からついこの間までずっと言われていたね。


●書籍『いつだって一期一会~テレビカメラマン新沼隆朗』より
武蔵野書房 (2000年12月初版)
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