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伊藤 清彦 氏 書籍『盛岡さわや書店奮戦記』より

このページは、書籍『盛岡さわや書店奮戦記』(伊藤 清彦 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・伊藤  今でも健在で、頑張っている書店です。北上書房といいます。

------ 人文書をよく売ってくれる書店ですね。


・------昔の図書館の本は貸出カードに名前が書かれたいたので、その本を以前に誰が借りたのか、わかってしまう。これが結構面白かった。


・伊藤  阿佐ヶ谷に住んでいる人たちは演劇関係が多かったから、それが棚に反映されていたんです。だから書原自体の地域とつながる文化運動的要素もあったでしょう。


ただ、後で知ったのですが、書原は山下書店から分かれたんです。だから山下一家が、一方では一般書店の山下書店、他方では専門店の書原を、七〇年代に展開していたことになる。


・伊藤  当時の返品は全部手書きですからかなり大変な作業だった。しかも赤カーボンの三枚複写でしたから。でも返品作業はとても勉強になった。全部手書きで、雑誌と書籍のタイトルを記しているわけだから、これはどこの出版社が出しているのか、どういう出版社はあって、このような傾向の出版物を出し、なぜこの店ではそれが返品になるのか、そういうことまで全部考えさせられた。これが書店に入って、まず一番目の勉強でした。


・一万冊売った『Dr.ヘリオットのおかしな体験』(中略)

伊藤  ヘリオットは五ケタまでいきました。

------(中略)五十坪の店で月商三千万円ということから判断すれば、信じられない冊数と売上高だ。(中略)


月商の六分の一近くを文庫一冊で稼いだことになるわけですね。

伊藤  確かにそうですが、五年以上かかっています。


・------この新刊文庫のパターン配本は大手書店とそれまでの販売実績、常備店といった基準で決められ、簡単に変えられない構造になっている。棚差し用の旧刊には出版社の売り行きに準じて、A、B、Cランクをつけ、棚数に見合って選択できるようになっていて、それに各シーズン毎の平台フェアがスケジュールとして組みこまれている。だから出版社と取次の上意下意的な売り方が一般的であり、これもまた金太郎飴と揶揄される一因だった。しかしこのような売り方は出版社と取次にとって、売上のスケジュール化が可能なので、歓迎すべきものだった。


・------渡辺淳一の代わりに、中公文庫ならではのシックな世界を面陳で示す


・伊藤  新刊書籍が入らないというのも、逆にいいものでした。

------それはそうでしょうね。二十坪の配本パターンからすれば、売りたい新刊書籍はほとんど入ってこないでしょうし、それに返品しなくてもいいし。


伊藤  返品もそうだし、自分で棚を好きなように構成できるんです。新刊が送られてくると、やはりそれに拘束されるところがある。


・伊藤  色んな版元が寄るようになってきた。さすが新潮社はきたことなかったですけど。


・伊藤  ポップというのは乱立すると、後ろの商品が見えなくなる。だから乱立はさせない。


・伊藤  どのくらい在庫があるか聞いて、出せる数をできるだけ入れてもらう。それを在庫稀少のポップをつけて売る。これはいつもやっていました。在庫稀少のポップというのはよく効きますから。


・伊藤  在庫稀少のポップは効くといいましたが、アカデミー出版絡みのハヤカワ文庫は「この名訳では二度と読めない」でした。これだけで、あっという間に売り切れた。本好きの琴線にふれるコピーで、そういうものだと思いました。


・伊藤  九一年七月です。僕には盛岡はほとんど初めてといっていい土地でした。(中略)まず文庫をやってくれということだったので、一応盛岡の書店を全部回り、傾向を見てみた。すると古くからの文庫の新潮文庫と角川文庫がほとんど全部の書店にあり、次に講談社文庫、文春文庫という典型的な大手出版社が優遇され、ちくま文庫はわずかしかなく。朝日文庫、河出文庫に至っては一切なかった。(中略)


でもお客さんはいるはずなので、構成比のバランスを調整した。(中略)そうしたら、それだけで二週間後に売上が二割上がった。それはみんなにマジックに映ったらしい。棚を増やしたのではなく、バランスを調整しただけだから。


・文庫の仕掛け方

------なるほど、それでは具体的にちくま文庫でしたら、絶対置きたい本で、記憶に残るものは。


伊藤  ライアル・ワトソンの『アースワークス』です。ちくま文庫で最も売りました。これは河出文庫の『風の博物誌』などに比べて、入門書として最もいい。(中略)


代表的作品、古くからの知恵がこめられた作品を、面に向け、目立つかたちにして示すこと。それからあとで、他のものを多様的に付け加えていくこと、でもここまでくると、それは教えようがないと思っています。それぞれの個人の読書体験というものが否応なく絡んできますから。


・伊藤  さわや書店が伸びた理由のひとつはスリップの二重管理なんです。前日の売上スリップを全部見て、しかもそれをノートに一回、一冊一冊を記入しているのです。どのジャンルがどのような流れで売れているのかということを、頭の中に全部通す試みであり、それをやらないと駄目なんです。(中略)


いまだにノートだ、スリップだなどといいますけれど、書くとやっぱり覚えますし、現在でもそれなりの書店はある程度それをやっているはずです。


・ラジオと本


------伊藤さんはテレビやラジオにも出ていますよね。


伊藤  テレビと本の相性はまったく駄目ですね。これだけは実感として受け止めました。本当に苦労して内容紹介しても、まったく反響がありませんでした。


それに反して、ラジオはすごいし、驚きですね。とんでもない数が売れます。これはあまり書いたことがありませんが、それから紹介した本はとても多くて、一冊一冊をよく覚えていないんですけど、ラジオ反響で、四桁売ったこともざらでした。


・------ラジオには何か秘訣、もしくはコツがあるんですか?

伊藤  最初にこれだけは言っておこうと構えたりして、原稿を書いていったりするのは駄目ですね。それで何度か失敗しました。アナウンサーがいますので、突っ込んでくるわけです。それで原稿に書いたこと以外のことをいわれると、いきなり言葉が止まってしまう。だから事前に用意するのは、読んだ印象と固有名詞のメモ程度にして、どんな質問に対しても柔軟に答えられるようにリラックスした姿勢で、対応することにしました。


・伊藤  ラジオついでにいいますと、NHKの「ラジオ深夜便」というのも割合効きます。


・伊藤  競合店と見なしていたが、実は書店共同体を形成し、競いつつも支えあって営業してきたことを思い知らされました。


------それはよくわかりますね。商店街の構造を見てみると、一業種一店だけでは駄目で、何店もあったほうが競争するし、客の側からすれば、比較し、使い分けができる。みんあそうじゃないかな。


私の親しい古本屋もいっていましたが、一店だけでは駄目なんで、何店かあることによって、客層も広がり、集客力も備わるので、競合店でもいいから、出てきてほしいと話していました。


・------この「出版人に聞く」シリーズのコンセプトは書店から始まり、出版社、取次、古本屋にも及んでいくシリーズというもの


・伊藤  凄い図書館に出会ってしまった。今年の夏の事である。福島県の南相馬市立中央図書館がそれである。一冊一冊の本が生きているし、棚のジャンル融合などは見事と言うしかない。流れも完璧に近いものがある。


●書籍『盛岡さわや書店奮戦記~出版人に聞く〈2〉』より
伊藤 清彦 著
論創社 (2011年2月初版)
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