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片田 敏孝 氏 書籍『人が死なない防災』(集英社 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『人が死なない防災』(片田 敏孝 著、集英社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・時に、自然の大きな振る舞いに直面するということです。すなわち、自然に近づくということは、その恵みに近づくと同時に、その災いにも近づくということなのです。恵みも災いもまったく等価、同じです。


・今世紀末、二一〇〇年頃の地球温暖化の影響を試算したデータによると、台風の数は、三八から三〇に減ります。ただし、最大風速四五メートルを超えるような巨大な台風は三個から六個に増える(「平成一九年度 国土交通白書」)。つまり、台風の数は減るけれど巨大台風の数は倍増するというイメージです。


・防波堤は何のために作ったのでしょうか。住民の命を守るためです。ところが、これに頼り切って逃げなかった住民がおり、その結果、命を落としたのです。


・現実には、「避難勧告が出ていなかったから逃げなかった」人が亡くなっているわけです。あるいは「ハザードマップを見たら、家は大丈夫だから逃げなかった」人が亡くなっている。これも主体性のなさです。


・地震直後、釜石に出た津波警報の第一歩は、予想される津波の高さ三メートルでした。(中略)大震災の大津波では、九九.八パーセントの児童・生徒は生存したものの、釜石全体では死者・行方不明者が一〇〇〇人を超えました。


・三原則その一「想定にとらわれるな」
三原則の最初は、「想定にとらわれるな」。端的に言えば「ハザードマップを信じるな」ということです。


・ 「ハザードマップを信じるな」(中略)「書いてあることを信じるな」と言うのですから子どもたちにすれば、「だったら配るなよ」と言いたくなるような状況です。しかし、そこを押してでもやることに意味があるのです。


・三原則その二「最善を尽くせ」


・三原則その三「率先避難者たれ」(中略)「人を助けるためには、まず自分が生きていなければどうにもならない。だから躊躇なく、まず自分の命を守り抜くんだ」


・日本の防災教育には、とかく陥りがちな間違いがあります。一つは「脅しの防災教育」。簡単に言えば、「こわいぞ、こわいぞ」と連呼するパターンです。 (中略)


もう一つの間違いは「知識の防災教育」です。(中略)与えられる知識、は主体的な姿勢を醸成しないからです。


・日本最大級の津波とされているのは、八重山諸島を襲った江戸時代の明和の津波で、石垣島で八五メートル、宮古島で三〇メートル以上と言う遡上高が記録されています。 その宮古島に、「ナーパイ」というお祭りがあります。「ナーパイ」とは、「縄を張る」という意味です。女性だけが地域の小高い丘に集まり、海に向かって「ダティフ」という竹の棒を立てて海と陸の境を伝えるお祭りなのですが、そのお祭りをやるために、年に一回、海から高台まで道を、住民が草刈りをして整備する。それから、高台の拝所も整備して、みんなが上がれるようにする。


彼らは、別に津波対策をやってるわけではありません。しかし結果的に、毎年お祭りをやることによって、未来永劫、避難路の整備がなされていくことになるのです。それは、明和の津波の後に、宮古島の人たちが「後世、あんな思いをしなくて済むように」作ってくれたお祭りのように思えます。


じつは、釜石にもそうした災害文化のようなものがありました。「陣屋遊び」というものですが、五月五日を目標に、山の平地に陣屋を作って攻防をする遊びで、各陣地は、他の陣地に負けないように大漁旗を掲げるなど、華やかに飾ります。そして、五月五日当日は、お菓子や弁当を持ち込み、太鼓をたたいたり、ブリキ缶を鳴らしたりして朝から一日中陣屋で過ごすのです。旧暦の五月五日は、明治三陸津波が襲来した日です。陣屋遊びは、先人が考えた、遊びを通じた津波避難所の整備・避難訓練だったのではないかと思うわけです。


・人間は、常に忘却する。


・東北地方には「津波てんでんこ」という言葉が残っています。(中略)「津波のときには、てんでんばらばらで逃げろ」ということです。(中略)「家族の絆がかえって被害を大きくする」という、辛く悲しい歴史を繰り返してきたからです。子どもが親のもとまで行って、両方とも死んでしまう。お母さんが子どもを迎えに行って、両方とも死んでしまう。


・一個一個の訓練にどれだけの意味があるか(中略)意味の有り無しはどうでもいいのです。大切なのは、子どもたちのこういう姿勢です。自分たちが「助ける人」になるためには何が必要なのか、一生懸命考える姿勢です。


・ 「日本の防災はまちがっている」と私は思っています。(中略)ボランティアも、災害から生き残った人たちを支援する行為です。(中略)私は、防災の本質は「人が死なない」ことだと思うからです。


・東日本大震災では、なぜこれだけ多くの犠牲者が出たのか(中略)

まず一つ目の要因は、「想定に縛られていたため、十分な避難をしなかった」ということである。(中略)

二つ目の要因は、「身体的理由から避難することができなかった」ということである。(中略)

三つ目の要因は、「状況的に非難することができなかった」ということである。


・明治三陸津波の被害状況(中略)

明治三陸津波当時の釜石町の人口は六五二九人。そのうち四〇四一人が亡くなっています。この釜石で、です。


・津波はほぼ等間隔に近い周期性をもって、繰り返しやって来ます。


・津波警報は、大半の住民にとっては「外れ」


・情報収集に走るがゆえに逃げない住民


・「津波の前には潮が引く」という言い伝えがあります。ほとんどの人がそう信じていたのですが、これは間違いです。潮が引いたら津波が来ますが、潮が引かなくても津波が来ることもある。


・「津波の前には潮が引く」という固定概念が強化されてしまう。ところが、昭和三陸津波はいきなり上げ潮から来ているのです。したがって、引き潮から津波が来ると思うのは大きな間違いだということです。


・住民が逃げなかった理由は、基本的には「正常化の偏見」が強く働くためですが、もう一点、「認知不協和」ということがあります。小難しい言葉ですが、簡単に言い換えると、「わかっちゃいるけど……」ということです。例えば、試験前に勉強しなければいけないことはわかっているけれど勉強していない、というようなことがあります。


・ 災害の本質は、誰にとっても予想もしないことが起こることです。もっと正確に言えば、誰にとっても予想もしたくないことが起こることが災害です。予想もしたくないことだからこそ、備えも怠りがちになります。


・避難というのは、本来は三つの考え方で理解されるべきだと思います。(中略)

一つは緊急避難。命からがらの避難です。(中略)
二つ目は滞在避難。(中略)体育館などの避難所で一時生活するような避難のことです。そして三つ目は難民避難(中略)避難をしたが、家に戻れないので仮設住宅で生活してるような状態です。(中略)日本では避難生活という語で済ませています。


・人口一億人のうち自然災害で数千人が亡くなることはシステムエラーです。しかし、一億人のうち一〇〇人亡くなることはシステムエラーではなく、事故です。


・過剰な行政依存(中略)「水が来た。だけど、逃げろとは言われなかったので逃げられなかった。市の責任は重い」。あなたは逃げろと言われなければ逃げないのか


・「一〇〇パーセントの安全が欲しいですか」
「欲しいに決まってる」
「だったら簡単です。ここから、この地域から出て行くしかありません」
住民は、何を言うのだ、という顔で私を見ます。私はさらに続けました。
「街の平地へ行けば土砂災害の危険はありません。ただし、洪水の危険があります。川沿いは嫌だから海のそばへ行ったら、津波でやられるかもしれません。自然から離れて都会で暮らしていたら、通り魔にあうかもしれません。どこへ行っても危ないのはあるのです」
住民も、役場の職員も絶句です。(中略)自然と向き合い、災害と向き合って暮らしていくことの本質を議論しなければならないのです。


・「六〇〇年前の墓石」が意味すること(中略)

私はこの地区に入ってまず墓場を回りました、いちばん古い墓石を探したのです。そして、六〇〇年ほど前の墓石を見つけました。頻繁に土砂災害が起こる地区で、コンクリートも情報もない六〇〇年前から生きながらえている石がある。そのことを住民に伝えました。


「どうしてこの地区が六〇〇年続いてきたかわかりますか。自分たちで主体的に災害と向き合う知恵があったからです。現に、昔から伝わる知恵があったでしょう。『あそこの沢から水が出たら危ない』とか『あの池の水が下がったら危険だ』とか……」

この問いかけは、住民に響いたようでした。(中略)いかに行政依存になっているか、その姿勢こそがこの地の最大の危険であることを指摘しました。

「皆さんが生きてる間は、それで大丈夫かもしれません。でも、そういう姿勢の中で育てられたお孫さんたちは、将来、どうなると思いますか。何かあると、すぐ役場に頼る。自分の命の安全までも、役場任せ、行政任せでするようになってしまいます。この状態が危険なのです。いいですか、皆さんは畳の上で死ねるかもしれないけど、お孫さんは畳の上で死ねないかもしれませんよ」


●書籍『人が死なない防災』より
片田 敏孝 (著)
出版社: 集英社 (2012/3/16)
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