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柏木 惠子 氏 書籍『子どもが育つ条件~家族心理学から考える』(岩波書店 刊)よりv

このウェブサイトにおけるページは、書籍『子どもが育つ条件~家族心理学から考える』(柏木 惠子 著、岩波書店 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・誰もが、自らの経験をもとに「家族はこうすべき」「子どもへのしつけはこうあるべき」といった、家族論、家族教育論などを展開しがちです。(中略)

けれども、それぞれの体験に根ざした論だけでは、今日の家族や子どもの育ちの問題は解決できませんし、逆にそうした論の広まりが、当の親や子どもを社会から孤立させてしまうことにもなりかねません。


・育児不安を内容分析した研究は、母親の不安や悩みには、大きく分けて二種類あることを明らかにしています。その第一は、「子どもの行動にイライラする」「子どもの育ちに心配がある」「しつけがうまくいかない」など、育児と子どもについての不安や悩みです。

第二は、「母親であると共に自分の生き方も確立したいと焦る(が、なかなかできない)」「以前ほどものごとが楽しめなくなった」「親としての責任に縛られている(親である以外のことができない)」「友だちとつきあう機会が少なくなった」など、親としてではない生活や活動から阻害されていることに起因する不安や不満です。


・無職で育児に専念している母親の育児不安を分析すると、育児や子どもそのものに対する不安よりも、むしろ自分自身に対する不安の方が大きい(中略)

大別して三つの要素があることがわかります。第一は社会からの孤立感、第二は「自分」喪失の不安、第三は夫との関係への不満です。育児それ自体への不安というよりも、自分自身のあり方への不安や焦燥が大きい位置を占めていることがわかるでしょう。


・育児ストレスに悩む母親たちと話し合う機会がありました。(中略)

何がストレスかといえば自分が「一人のおとなとして生きている」という実感がないことであると。これを聞いた同席の母親たちは皆共感しました。

そして別な母親は「社会から取り残されてしまっている」と話していました。


・子どもの命は結婚と性の結果「授かる」ものであったのが、親の意思や決断によって「つくる」ものへと変化したことは、画期的なことです。「人口革命」ともいわれます。少子化という数の問題以上に、子どもの命の現れ方が決定的に変質した「人口革命」こそ、親子の問題を考えるうえで重要です。(中略)

そうはいっても「子どもは宝ですか?」と尋ねられれば、多くの日本人は「そうです、宝です」と答えるでしょう。にもかかわらず、少子化が進行しています。「子どもは宝」と答えるのは嘘ではないにしても、本音は必ずしもそうではないのです。それは子どもを産む理由、生まない理由にみることができます。

子どもを産むか、産まないかの判断は、親の選択事項となりました。すると、子どもが親の意思や選択とは無関係に生まれてくる(授かる)時には考える必要がなかったことが、浮上してきます。それは産むか否か、あるいはいつ産むか、何人産むかの決断です。何事であれ選択できるとなりますと、それがどんな価値をもたらすか、他と比べて価値が大きいか、デメリットはないか、などを考えるものです。


・「つくらない」という選択もある中で「つくる」と決めて「つくった」子は親の「もちもの」的存在となりがちです。そのような子に対して親は淡々としていられません。強い思い入れとともに積極的に関与することになりがちです。その態度が、多額の教育費支出という多大の投資を子にもたらします。


・親が子供に一番よく使う言葉は「早く、早く」です。子どものテンポ、子どもの関心を考慮せず、子どもを親の予定やスケジュールに無理やり従わせようとしての言葉です。本来、子どもに必要な「察し」を欠いた先回りが多くなったのです。


・自分が何によって活き活きとできるのか、社会に貢献できるのかを広く考えることが先決でしょう。それなしに、たんに「いい学校」に入ることを目標としたり、親の「よかれ」の思いに煽られている現状では、問題はさらに増加するばかりでしょう。


・これまで、赤ちゃんは、眼はぱっちりしているが、はっきりと見えていないといわれてきました。しかし、あらたの研究によって、赤ちゃんの視覚が、実は敏感で正確であり、しかも積極的なものであることが明らかとなっています。視覚にあるものを受動的に見ているのではありません。見たいものを見る、複雑なものや新奇なもの努めて見るといった好奇心に溢れているのです。


・いつもより距離をとって子どもをみたり、また他の子どもと自分の子どもをいっしょにみたりする機会は、親たちに普段気づかなかった子どもの特徴や持ち味、力を発揮させます。このような子どもの再発見は、親にとっても、子どもに対して応答的になれる貴重な体験となるようです。


・親が一〇〇%、「個」として行動するには無理があります。育児では、あくまでも子が主体であり、親は個人としての子どもを受容し、そのことを中心に応答的であることが最も重要だからです。したがって、育てる者が主体として個人として生きている実感を得るには、子育て以外の場がどうしても必要です。


・発達といえば、子どもに限ったことと一般的には思われるでしょう。(中略)

ところが(中略)おとなになった後も、人の心や行動は、様々な体験を通して成長・発達し、さらにそうした日々の成長が人を活性化させ、充実感や幸福感をもたらすことが実証的に明らかにされてきたのです。発達は子どもだけではなく、大人の問題でもある


・人間の親と子は単に「育てるもの(親)」「育てられるもの(子)」という関係にとどまりません。子どもを育てる(親をする) 営みの中で、育てる者、すなわち親自身の心や能力も鍛えられ、成長するのです。まさに親自身の成長・発達です。


●書籍『子どもが育つ条件~家族心理学から考える』より
柏木 惠子 (著)
出版社: 岩波書店 (2008年7月初版)
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