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出版業界の豆知識

[ 出版業界について ]

電子書籍のブームは来るのか

寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏

【電子書籍の現状】 アダルト系コミックは好調だが、その他の販売は低調

米国ではアマゾンのキンドルとアップルの携帯端末機、iPad(アイパッド)の売れ行き好調で日本においても電子書籍の話題が多くなり、メディアでも取り上げられ始めた。更に国内出版物の売れ行き不振からビジネスチャンスとばかり出版社の関心も高くなっているが、どうもマスコミのニュースに踊らされているだけと思われてならない。
 

日本の電子書籍は460億円以上の市場規模といわれているがその内、携帯端末用の電子書籍(アダルト系コミック)が400億円以上あり一般書籍の電子書籍の販売は低調が続いている。


まず、日本では日本語を読める電子書籍専用端末は発売されていず、ネット書店でも電子書籍を併売しているなど聞いたことも無く、出版業界に黒船が上陸してくるなど一部の評論家と称する人々が出版社の不安を煽るような発言を繰り返しているがこれをポジショントークと言う。


キンドル・iPad(アイパッド)・ソニーのリーダーの次に6月にグーグルが新商品投入予定、今秋はマイクロソフトも新たに新製品を発売すると発表しているが、いずれも英語圏での話であり本格的な日本語に対応する読書端末機は出てきていない。英語圏のデバイスの話題のみが先行しコンテンツの話が出てこないのにも違和感を覚える。


iPadは“読書専用端末機”ではなく、携帯電話とパソコンの間を埋めるもの

2010年5月28日(金)にiPad(アイパッド)という端末機が日本国内でも発売されようとしているが、これは多機能携帯端末機で読書専用端末機ではなく読書も可能となる携帯電話とノート型パソコンの中間の位置づけと考えられる。米国ではゲームなどのアプリケーションのダウンロードが電子書籍のダウンロードよりも多いとの発表もあった。


欧米の出版事情と日本の読書スタイルの違いが鮮明なのに米国のシステムそのものが日本に通用するかは端末機の売れ方で変化すると考える。それでも日本で電子書籍が定着するには、日本人に使い勝手のよい最適なデバイスと配信サービスが必須条件となる。更にいくらデバイスが優れていても読者がどうしても端末機で読みたいコンテンツが豊富に揃っていなければ買うこともないし普及もしない。


アメリカと違い日本には書籍中古品市場が存在、新刊市場の半値で販売されている。この価格が電子書籍の販売価格に大きな影響を与えることになるかもしれない。現実に調べてみると電子書籍で売っている小説の値段よりもブックオフで売っている本の方が安い場合が多く見受けられる。


電子書籍が定着すれば品切れ・絶版・万引き・返品・流通寡占も無く、極端なことをいうと中古本書店・古書店も要らなくなる。印刷・製本や流通マージンがない分、価格も安く本の置き場所に困ることも無い(ストックを趣味とする人は困る)のでバラ色に映るが、一方で電子化された本でも売れない本も出て来る。


日本の出版社は、そもそも著作権や隣接権を持っていないので著者が直接電子書店などと取引するのではないかとの恐れを持っているが、従来は印刷部数で著作料金を払っていたが電子書籍は実売金額となり売れなければ著者も収入が減るので出版社を無視することはできない。


日本の読者は本の入手に全く困っていないし紙の本の読書率も衰えてはいない、更に新古本市場も拡大している。


アイパッド狂想曲と電子書籍の話題は盛り上がるだろうが日本語の読者は英語圏の百分の一と見る。日本語の電子書籍は日本国内だけの話で、現状では期待するほどのビジネスチャンスにはならない。日本の読者は本の入手に全く困っていないし紙の本の読書率も衰えてはいない、更に新古本市場も拡大している。


日本の電子書籍市場も5年先に定着するかどうかは不透明だが当面紙の本と併走を続けるだろう、それよりも電子教科書と電子黒板が先に普及するのではないかと言われているが総務省・経済産業省・文部科学省の縄張り意識が強く定着するには時間が掛かる。


寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏

電子書籍を利用したい理由 (複数回答可)

順位
項目
1位
保管場所をとらない
82.8 %
2位
読みたい作品が直ぐに手に入る
56.2 %
3位
多くの本を持ち運びできる
52.7 %
4位
書籍の検索がしやすい
49.2 %
5位
在庫切れが無い
39.2 %
6位
紙の本より価格が安い
23.9 %
7位
文字の大きさを変更できる
13.4 %
8位
自然環境に良い結果となる
8.9 %
9位
音声読み上げ機能が付いている
4.8 %
10位
特に無い・なんとなく
4.6 %

電子書籍を利用したくない理由 (複数回答可)

順位
項目
1位
開きたいページや、読み返したいページを直ぐに開けない
43.0 %
2位
専用端末機を買わなければならない
38.0 %
3位
専用端末機のバッテリーが気になる
33.1 %
4位
紙の質感が無い
31.8 %
5位
自分のコレクションが出来ない
25.6 %
6位
読み終えたときに達成感が無い
23.9 %
7位
書き込みやメモ書きが出来ない
15.1 %
8位
読みたい本が電子書籍化していない
10.5 %
9位
配信される本が偏っている
7.2 %
10位
特に無い・なんとなく
24.9 %
※提供:(ライフネット生命保険)2010年4月調査


≪関連書≫

・『iPad VS. キンドル~日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』
西田 宗千佳 著
エンターブレイン (2010年3月初版)
※amazonで詳細を見る


・『電子書籍の衝撃』
佐々木 俊尚 著
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010年4月初版)
※amazonで詳細を見る



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