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森村 誠一 氏より(書籍『作家とは何か』より)

このページは、書籍『作家とは何か~小説道場・総論(森村 誠一 著)』から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・人が本を読むのは、自分の知らない精神世界を覗きたいがためである。本を読むことによって未知の精神の視野が開ける。


・小説作家希望者についての十ヵ条

第一条-----覚書き、記録以外の日記は書かない。書く場合は読まれることを意識して書く。

第二条-----読まれることを意識して書く日記は、修飾(虚言)を施しやすい。虚実ないまぜての日記は本来の日記ではなくなるが、小説の原型となる。

第三条-----名著を多く読む。
文章作法は名文の模倣から始まる。文章と共に構成や、作者の志や姿勢、思想、テーマの選び方などを学ぶ。

第四条-----感銘した作品は、ブロット、構成、テーマ等のメモを取る。
人間の記録力は限界があるというよりは、極めて貧弱である。記憶したつもりでも時間と共に風化し、また誤って記憶される。メモは記録力を補正する。

第五条-----自分の知的面積よりも広い知的面積を持つ本を読む。
私たちが独自に発見するものは極めて少ない。自己の狭い経験に閉じこもっている限り、新たな知識や情報は得られず、知的面積は拡大しない。大きな知的面積に触れることによって、未知の知識との間に葛藤が生じ、これを咀嚼し、同化して、自分の知的面積は拡がる。同じ(等身大)、あるいは以下の知的面積にばかり甘んじていると進歩はなく、むしろ退化していく。

第六条-----常に新しい言葉をおぼえる。

第七条-----口語から文語への変換。

第八条-----説明よりも描写を。

第九条-----新人賞の功罪。

第十条-----文学中毒に負けない


・作者にとって読者を基準にして分けると、一は、読者に求められ、作者も書きたい、いわゆる相思相愛の作品。二は、作者はあまり気は乗らないが、読者や出版社のニーズに合わせ、読者におもねた作品。三は、読者に必ずしも求められていないが、作者が書きたい、またある程度の反対読者が予想される作品である。
『人間の証明』は第一のタイプであり、『悪魔の餌食』は第三のタイプの作品であった。


・小説の受け取り手、読者は必ずしも愛読者とは限らない。私の経験では、愛読者は(固定読者)はせいぜい二万部止まりで、これを超えると浮動読者、選挙で言えば浮動票になってくる。本を買ってくれても終わりまで読んでくれるとは限らない。


・作者にとって相性のよい出版社とは、言うまでもなく自分の作品を最も多くの読者に橋渡ししてくれる出版社である。


・愛読者のタイプ
親衛隊読者
作品中心読者
団塊の読者
副読者
間欠読者・死後読者
海外読者


・出版社の規模、歴史、関係作家、出版物等を基準に、おおむね次のようなタイプに分けられる。
①文壇型出版社
歴史があり、大手として確立していて、全出版物の中核をなす作家がそのまま文壇を形成する。

②野党型出版社
文壇型出版社に準じる歴史を持ちながら、反文壇型である。

③第一ホテル型出版社
第一ホテルの創業の精神は、帝国ホテルからこぼれ落ちた客を拾い集めることであった。経済力だけではなく、客を選ぶ帝国ホテルを敬遠する客に狙いを定めて成功した。

④巨鯨型出版社
すべての部門を総合出版社である。

⑤革命児型出版社
歴史は浅いが、ベストセラーを連打して急成長した出版社。

⑥手作り型出版社
社史も浅く規模も小さいが、一作ずつ丁寧に出版して、丹念に育てる。

⑦専門型出版社
文芸諸分野のうち、特定の分野の作品のみ出版する。

⑧商社型出版社
ほとんどの中核企業は出版社ではない。不動産業や、食料品メーカーや、建設業、小売業など異業種を中心として、その一部門に出版社を営む。

⑨新聞社系出版社
新聞社の一部門である。新聞と出版は隣接しており、商社型のような違和感はないが、編集者の気質が専門出版社とはだいぶ異なる。

・編集者のタイプ

①偏従者型
いまをときめく流行作家や巨匠の編集者に多い。作品を絶対にけなさない。とにかく担当作家をおだて上げ、出版社ではなく、その作家に仕えたかのように減私奉公して、売れる原稿を捥ぎ取っていく。

②芸者型
一型の変型であるが、特に酒場、カラオケ、ゴルフ、旅行と遊びのつき合いがよい。最近、このタイプの出版社の接待費が厳しくなって激減している。

③プロデューサー型
作品中心主義。内容が気に食わなければ、どんな巨匠・大家にもクレームをつける。それだけ作品を見る目は高いが、大家や流行作家からは敬遠される。また市場中心主義にもなっている現場からは次第に遠ざけられる。

④軍師型
作品の評価眼も確かではあるが、作家の隠れた才能も引き出す。単なる作品中心ではなく、その洛陽の紙価を高めるために最大限の戦略を展開する。作家にとってはまことに頼もしい軍師であるが、特定作家に肩入れしすぎて、他の作家から疎んじられやすい。

⑤書誌学者型
とにかく博学である。故事来歴、出典、文法、諺、歴史等に通じ、作家に成り代わり誤字、誤文、矛盾、時代考証等をすべてチェックしてくれる。作家にとってまことに有り難いぞんざいであるが、うるさがる作家も少なくない。

⑥時代錯誤型
作家と一心同体にならなければよい作品は生まれないと信じている。電話やメールですむような用件でも、いちいち足を運んで来る。作品の内容についても細かく作家と討議したがる。今日ではほとんど絶滅している。古きよき時代の編集者にはこのタイプが多かった。

⑦作家予備軍型
最初から作家を志していて出版社に入社して者と、作家を担当している間に自ら作家に転向した者、また定年後作家になった者の三タイプがある。老舗出版社や新聞社に多い。

⑧大編集者型
業界で名前が通っている編集者。たいてい文芸誌や月刊誌、週刊誌の編集長を経由して、多数の作家を育成し、文壇に広い人脈を擁し、引退後は作家の思い出や文壇のこぼれ話を拾い集めて書く。

⑨サラリーマン型
べつに編集者になりたくてなったわけではない。就職活動の一環として入社試験を受けたら合格して編集者になった。およそ小説などには興味なかった者が、作家の担当となってやむを得ず読んでいるが、全然面白さを感じない。社命でただ担当になっただけである。こんな編集者に担当された作家の市場は痩せていく一方である。大手出版社に多い。

⑩天職型
文芸編集者以外になに者にもなりたくなくて編集者になったタイプ。サラリーマン型の正反対で、とにかく小説が好きでたまらない。編集者という仕事に情熱を燃やしており、作家予備軍のような野心はない。軍師型と複合するところがあるが、特定の作家の偏ることなく、視野が広い。現場が大好きで、昇進して管理職につけられることを嫌う。このような編集者に担当された作家は幸福である。

⑪渡り鳥型
異動の激しい出版社に多いタイプ。作家は編集者と二人三脚で作品を書くようなところがある。一人で作品に向かい合うのはかなり意思の力を求められる。作家は独楽(こま)のように、常にはたきをかけられていないと自動的に運休する傾向がある。
ともすれば怠けようとする作家を叱咤し、励まし、あるいはおだてて書かせるが編集者である。編集者の息が合わないと、途端に筆が重くなる。多年にわたった担当編集者が交替して書けなくなる作家も少なくない。
文芸の編集者はハウツーものや、趣味本の担当編集者と異なり、本領を発揮するにはある程度の期間が必要である。これがくるくる渡り鳥のように異動しては、作家と編集者の呼吸が合わない。


・三十代後半から四十代にかけては、一日十数時間、月産七百枚ぐらいは書いたものであるが、今日ではそんなに量産する作家はいないようである。


・現在作家の七つの道具の第一はボイスレコーダーである。インタビューした相手の発言、印象、現地の風景、ディテール、音などを録音する。ビデオもよいが、取材相手を警戒させる。
次のデジタルカメラがある。音声に比べて情報量が多い。パソコンに取り込んでリアルタイプに送れる。


・作家のタイプ

読者のタイプがあるように、作家のタイプも分かれる。

破滅型

およそ小説を書けるような環境ではないところに自分を追い込まないと書けないタイプ。
流連荒亡、紅灯の巷に身を置き、果ては乱酔して、時には暴力沙汰に及び、心身を痛めつける。このタイプは一人ではできない。
これを支える、あるいは破滅を助長する女性陣、編集者、出版社の存在が必要である。今日、このタイプはほとんど絶滅している。
社会のシステムが破滅型を許さなくなり、破滅型女性陣と編集者もいなくなったからである。


同人誌型

純文学畑に多い。学生時代から同人誌に属し、卒業してもほとんど社会生活の先例を受けず、狭い同人誌の世界でひたすら文章修行に明け暮れる。
各同人誌には牢名主のような自称作家がいて、既成作家の作品をこき下ろす。狭いサロンのような同人誌が犇き合っているが、それぞれが外には通用しない独自の世界(井戸)を持っている。同人はその中で鳴いている蛙である。有名同人誌になると、井戸から飛び出して流行作家に化けることもあるので、同人はあとを絶たない。


脱サラ型

同人誌型と異なり、社会人、おおむね会社や組織で市民生活を送った後、作家に転じた。同人誌型と異なり、社会生活の洗礼を受けているので、社会常識に富んでいる。一方では、作品がそれぞれの職業に偏したステレオタイプになりやすい。


スペシャリスト(転向)型

脱サラ型と似ているが、前身がサラリーマンでなく、医者や、弁護士や、税理士、僧侶、技術者、官庁の要職などにいて、専門知識に富んでいる。
おおむね前身の専門職に基づいた作品によってデビューを果たし、作品領域を広げていく。作風は脱サラ型よりもさらに専門的になる。


隣接型

脱サラ、スペシャリスト型と多少複合するが、文芸の隣接分野のような編集者、新聞記者、脚本家、ライターなどから作家になった。脱サラや転職という感じではなく、前職の延長線上の形である。出版、文筆の業界に詳しく、顔も広い。だが、知りすぎているために、同業者から敬遠されるきらいがある。


便乗型

転向型の一種であるが、映画、芸能、スポーツ等で一応の功成り名を遂げ、その知名度に便乗して小説を書き始めるというタイプ。すでに名前のポピュラリティがあるので最初から読者がついている。だが、他のゲイや技と文芸ではおのずから異なり、なかなかの本職のようにスーパースターにはなれない。


虚匠型

名前は業界に浸透しているが、これといった作品がない。文壇という一種の曖昧な業界の遊泳術に優れていて、そのスポークスマンのようにマスコミによく登場するので、いつの間にか巨匠のようにつり上げられているが、書店に本はほとんどない。図書館の化石コーナーにようやく古い作品が埃を被っている。


休眠型

デビュー時、大活躍をしたが、その後しばらく鳴りを潜めていてから、突如目を覚まして、デビュー当時以上の活躍をする。休眠期間が長ければ長いほど、インパクトは大きい。虚匠型は時に休眠型に転ずることもあるが、虚匠は作品を発表しないだけで、休眠しているわけではない。


化石型

虚匠がこけむしてくると、化石になる。もはや文壇を遊泳することもなく、名前だけは通っている。死んだとおもっている人が多い。


・作家の自殺
作家には自殺者が多いように見える。よく知られている作家の自殺は、芥川龍之介、川端康成、太宰治、有島武郎などである。


・(サイン会は)入念な準備と事前の広告がないと、なかなか読者は集まってくれない。一時間、七十冊以上捌ければ、おおむね成功と見なされる。


・講演会には大きく分けて八種類ある。

一、政治的・思想的な記念行事のイベントの一つ
二、業界の教育、啓蒙、情報提供
三、専門知識の共有
四、各種知識の提供
五、決起集会の激励
六、前のタイプのすべてを包括した講演業者が設定したイベント
七、各種記念行事の基礎講演
八、その他
である。


・私は講演を引き受けるとき、次の三つの基準にしている。
A、主催者側に問題意識がある。
B、講演地に興味がある
C、いったん謝絶したが、再度招請を受けたとき。


・人間の三大本能は、食欲、性欲、そして表現欲である。


・本は大別すると、
一、自己形成のための本。いわゆる教養書。
二、職業に関する本。
三、趣味のための本。
の三タイプである。


・作家のとって優れた編集者は戦国の群雄の軍師のような存在である。


●書籍『作家とは何か~小説道場・総論』より
森村 誠一 著
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