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近藤 勝重 氏(書籍『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』より)

このページは、書籍『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣(近藤 勝重 著)』から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・「が」と「は」の使い分けは日本語の文章の基本パターンです。それがおかしくなると日本語も危うくなる、そんな助詞ですね。

作家の井上ひさしさんもそのことを案じられていたと思います。井上さんは「が」と「は」について桃太郎の話をさないます。

「むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあいさん“が”住んでいました。おじいさん“は”、山へ芝刈りに、おばあさん“は”、川へ洗濯に------」

最初に出てくるおじいさんとおばあいさんは未知の情報だから「が」がつくけれど、2度目からは既知だから「は」。


・物に託す俳句例(中略)

有名な俳人、金子兜太さんが俳句の入門書に「感情は象徴的な物に託せば、句に深みが出る」と物をとおした描写をすすめいます。「さびしい」の例句はこうです。

 クリスマスたった一つのグラスかな


・「つらい」とも「悲しい」とも「うれしい」とも書かず描写に徹する表現法を学ぼう。


・城山三郎さんに学ぶ心情を吐露しない表現法(中略)

氏はつねづね「心情吐露や説明はいらない。描写が大切だ」とおっしゃっていた作家です。(中略)

二〇〇〇年の二月に愛妻容子さんを肝臓ガンで亡くしました。(中略)以下は城山さんがガンの精密検査を受けて帰ってくる容子さんを待つ場面です。


七、八割は癌と、覚悟する他はなかった。それを彼女の口から告げられたとき、私は何と応じればよいのか。

慰めようもない。せいぜい、「医学は進んでいるから、心配することはないよ」くらいしか言えない。いや、悲痛な彼女を眼前にして、それさえ口にできぬ気がする。

では、何と言って・・・・・・。

机に座り、原稿用紙に向かいながらも、落ち着かぬ何とも言えぬ、いやな気分であった。

他人については描写したことがあっても、私自身には、何の心用意もできて居らず、ただ緊張するばかりであった。

長い時間、あれこれと悩んだだけで、何の答えも出せずにいると、私の部屋に通じるエレベーターの音がし、聞きなれた彼女の靴音が。

緊張し、拳を握りしめるような思いでいる私の耳に、しかし、彼女の唄声が聞こえてきた。

こちらがこんなに心配しているというのに、鼻唄うたって来るなんて、何というのんきな------と、私は呆れ、また腹も立ったが、高らかといっていいのその唄声がはっきり耳に届いたとき、苦笑ととも、私の緊張は肩すかりを食らわされた。

私なども知っているポピューラーなメロディに自分の歌詞を乗せて、容子は唄っていた。

「ガン、ガン、ガンちゃん ガンたらららら・・・・・・」
癌が呆れるような明るい唄声であった。

おかげで、私は何ひとつ問う必要はなく、
「おまえは・・・・・・」

にが笑いして、重い空気は吹き飛ばされたが、私は言葉が出なかった。かわりに両腕をひろげ、その中へ飛び込んできた容子を抱きしめた。

「大丈夫だ、大丈夫。おれがついている」

何が大丈夫か、わからぬままに「大丈夫」を連発し、腕の中の容子の背を叩いた。こうして、容子の、死へ向けての日々が始まった。

・「はじめに言葉ありき」ではなく、「体験ありき」


・自分にしか書けないことを、誰にでもわかるように書くこと
※井上ひさしさんのいい文章とは


・文章で大事なこととして、誠実さ、明晰さ、わかりやすさの三つを挙げたのは鶴見俊輔さんです。


・実作上、心がけたい三原則(中略)

①事物を具体的に描き出し、そこから答えを抽き出す
②「生きるとは」あるいは「人間というもの」を頭のどこかに置いて書き進める
③人、物合わせて物事全般の現在・過去・未来を見つめつつ書く


・見たこと聞いたことは先に、どう思ったかは後で書く


・「ひらめき」をつかむ三つの行為(中略)

ぼくは文章に行き詰ったときなどは外からの働きを求めて次の三つのことを試みています。

①エッセイや対談集を手に取る
②街をぶらぶら歩く
③誰かと談笑する


・現在、過去、未来の流れで世の中のさまざまなことをとらえれば、情報はより伝わります。


・主だった比喩に「直喩」と「暗喩」があります。直喩とは一つの事物を他の事物に直接たとえることです。「・・・・・・のようだ」「に似ている・・・・・・」などの言葉を使いますね。(中略)

直喩に対して「暗喩」があります。隠喩とも言います。「・・・・・・に似ている」などという言葉は使わない修辞法です。「沈黙は金、雄弁は銀」の類ですね。


・人になぞられて表現する擬人法、音や声の擬声語、状態を表す擬態語があります。これらの比喩は要注意です。ドドド、ザザザといった波の音はすでに読み手にわかりきった音なので、そう書くとかえって安っぽくなります。むしろ擬音が使わないほうがより印象的に伝わります。(中略)

暴力団の抗争が起きると、「パン。乾いた銃声がした」と書く記者がいて、「パンじゃ、かえって迫力ないよ」と言ったものです。(中略)

手あかのついた擬音より、音を想像させたほうが伝わる。


・文章を書くということは自分自身を見つめることです。


・「心情は描写せよ、説明するな」と言ってきました。文章の大原則です。


●書籍『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』より
近藤 勝重 著
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