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鈴木 敏夫 氏 書籍『基本・本づくり』より

このページは、書籍『基本・本づくり』(鈴木 敏夫 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・私は古くから若い人たちに「出版人に必要なのはABCの三つだよ」といいつづけてきました。ABCとはArt(芸術)、Business(営業実務)、Craft(技術)を略したものです。アートは“芸術”と直訳するより“知的創造力”(企画に通じる)といった方がいいかも知れません。


・心理学者・森岡健二氏は、人間の本能や欲求を次の一九項目に分類しています。
(1)安全欲
(2)獲得欲(貯蓄-----鈴木注。つまり金もうけ、ゼニへの魅力)
(3)冒険心
(4)愛
(5)創造欲
(6)好奇心(同上。これはなかり強い要素です。ヤジ馬心理、のぞき趣味など。週刊誌など、とくに“人間臭さ”いわゆるヒューマン・インタレストが求められます。とくに日本人はゴシップ好きですね)。
(7)知識欲(同上。ハウ・ツウものの流行など。この心理からでしょう)
(8)恐怖心(中略)
(9)模倣心
(10)独立心
(11)忠誠心(中略)
(12)娯楽・嗜好(中略)
(13)能率
(14)美
(15)名声
(16)自尊心
(17)健康(中略)
(18)空想(中略)
(19)性欲。

戦後のベストセラー・リストをみても、これらの一つ、あるいはいくつかの組合わせがテーマであり、売れている雑誌の場合も同様です。


・出版界ではよく“ニッパチ月は鬼門”などと申しますが、これにもそれ相当の理由がある。すくなくともあったわけで、購買力が最も落ちることが、統計的にも証明されていました。


・書籍の購買目的

男=
①仕事や研究のため(二三・三%) 
②常識をつけるため(一六・三%) 
③趣味を生かすため(一六・〇%) 
④学校の勉強のため(一四・五%)

女=
①趣味を生かすため(二〇・五%) 
②常識をつけるため(一八・五%) 
③学校の勉強のため(一六・六%) 
④話題を豊富にするため(一一・四%)


・著作権協議会で毎年発行している「文化人名録」


・文章を書くときのの心得として、「3C1V」ということもよくいわれます。正確(Correct)明快(Clear)簡潔(Concise)変化(Variation)の四つ。文章は表現力と取材力とプラス・アルファで、このアルファがなかなか大切なのだ、と説く人もいます。


・原価計算と採算(中略)

一冊当たりコストがいくらかかるかなどということは、原価計算の序の口であって、本当の計算はその先にある。原価計算には、もっと大きな目的があるのです。

原価計算の一ばん大きな目的は、その出版企画を実施することで、果たして採算がとれるかどうかを調べることです。つまりその本をつくることによって、利益を生み出すことができるかどうか、ということ。(中略)

つぎに原価をコントールすること。(中略)本のつくりかたには無数の方法があります。新書判でお手軽るに仕上げることもできれば、りっぱな外箱をつけ、クロース装に金箔入りの厚表紙、本文用紙には最高級の上質紙を用いて、豪華版に仕上げることもできます。(中略)

本のつくりかた次第で、その本をつくることによってあげられる利益額も違ってきます。


・原価計算ということば自体にも、二つの意味があります。というより、原価計算に二つの種類がある、といったほうがいいでしょう。事前原価計算と事後原価計算の二つです。

事前原価計算というのは予算計算をたてるための、いわば見積もり計算です。事後原価計算は、決算のために会計的に原価を決定する。もっと端的にいえば、税務署にこの本の原価はこれだけかかりました、と申告するための原価計算です。


・機械などに頼らず、頭脳だけを唯一の頼りとして商売をする出版界というところこそ、最も知的で文化的で、高級で、近代的なのもかも知れません。そう思いたいものです。


・いわゆる「ベストセラーにするために演出する」という思想の奥には、読者大衆の鑑識力を低いものに見、悪くいえば、宣伝で読者をたぶらかす、といった風なものが感じられ、同時に出版が水商売であると非難させるにも、こんなところに原因があると思われて、私はこういった方法が常習的にとられることには、好意をもっておりません。


・出版界の過当競争------本が多すぎるということです。日本は出版点数の多いことでは世界有数(中略)英・米・独・仏などとセリあって、世界のベスト5には毎年必ずはいっているという“出版王国”


・出版社が現在行なっている書籍定価のつけかたですが、書協資料は、つぎの五つの形式があるとしています。

①初版発行部数を決め、直接生産費と間接費を計上、その上に一定利潤を見込んだ定価
②初版では低い利潤しか見込まれないが、長期間にわたり版数を重ねることによる、利潤を見込んだ定価
③他社の発行した本の、市販価格を参考にしてつける定価
④前記の中間的方法でつける定価
⑤生産に性急のあまり、一切を無視してつける定価


・出版界の直接原価のうち、紙代は全体の四、五〇%にも達するのが普通


・出版文化協会の基準案を見ますと、直接費三五%、販売手数料二五%、宣伝費一〇%を入れますと計七〇%となり、定価の三〇%がアラ利益となり、このアラ利益の中から間接費約二〇%を支払い、一〇%が利益を得るという計算になっています。基準案では間接費二〇%の中に返品分損失を見込んでいるのが、出版という性格からみてたいへん滑稽なのですが、にとかくそうなっています。


・弘済会ルートとこの即売ルートの二ルートで、週刊誌の約七〇%が消化されているそうです。


・出版事業がなぜ栄枯盛衰が激しく、興亡常ならぬ不安定な仕事に見られるかを考えますと、根本原因は出版が見込み生産であり、オール委託、返品は無制限に自由という、他の事業からみればかなり変則的な販売制度にある


・岩波書店の買い切り制度は、昭和一四年九月に発行した岡崎義恵氏の著者「日本文芸の様式」から開始されたもの


・採算点には“壁”がある(中略)

採算点は発行部数をふやせばふやすほど、(あるいは定価を高くつければつけるほど)高くなってゆきます。採算点の低いことは、少ない返品率でも赤字になることを示していますから、なんでもかんでも採算点は高くあればいい、と考えるのはお脳の弱い出版屋サンかもしいたとすると、非常に危険なことになります。(中略)

採算点理論の基本となっているのは

 総売上=総原価+総利益   S=C+P

の公式でしたが、原価Cを固定費Fと変動費Vに分けることになりますと、この公式は

 総売上=変動費+固定費+総利益   S=V+F+P

となることも、ここで承知しておいて下さい。


・固定費増大は要注意


・希望採算点への公式と利益管理公式


・必要最低限発行部数の公式(中略)

求める最低限総売上=固定費÷(1-変動費率)

 x=F÷(1-V%)


・印刷しやすい条件(中略)

①伸縮の少ない、よく枯れた紙を

紙は湿気に当たると伸び、乾燥した空気の中では縮む性質をもってますが、この伸縮の度が多すぎると印刷しにくい(中略)

②コシとシマリ(中略)
③裏表の少ない紙(中略)
④平滑さとインキのノリ(中略)
⑤紙のツヤ(中略)
⑥紙の白さ(中略)
⑦ウラ抜け(中略)
⑧ウラ移り(中略)
⑨紙ムケ・ケバだち(中略)
⑩耐久性


・“明朝”という書体と字体(中略)

もともと中国の明時代にできた書体で、ハケのような平らな筆でかいたら、こんな字になった、というのですが、和文活字の書体の中で、最も近代的な書体といわれる明朝体が、こんな古い歴史をもっているとは、ちょっとオドロキです。


●書籍『基本・本づくり~編集制作の技術と出版の数学』より
鈴木 敏夫 著
印刷学会出版部 (1967年4月初版)
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