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書籍『本を生みだす力』(佐藤 郁哉 著、芳賀 学 著、山田 真茂留 著、新曜社 刊)より

このページは、書籍『本を生みだす力』(佐藤 郁哉 著、芳賀 学 著、山田 真茂留 著、新曜社 刊)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・帯より

出版社4社を対象とする丹念なケーススタディを通して、学術書の刊行に関わる組織的意思決定の背景と編集プロセスの諸相を浮きぼりにしていく。


・書籍の売上げ不振は、学術書をはじめとする「堅い本」に関して特に深刻なものであり、学術出版の危機ないし学術書の危機が指摘されるようになって久しい。


・多くの出版社は、「売れるから、さらに新製品を作る」のではなく、「売れないからこそ、新製品を出し続ける」という状況に追い込まれているようにも思われる。これについては、多くの本は、今や日持ちのしない「生鮮食料品」のような性格を持つようになってしまったという指摘すらなされることがある。(中略)」


編集者は、「一輪車操業」という喩えを使っている。これは、自転車操業という場合の自転車の場合には、ペダルを漕がなくても両足が地に着いてさえいれば少なくとも乗ったままでいることだけはでできる。しかし、一輪車の場合には漕ぎ続けなければ座席(サドル)に乗り続けることさえままならない、というところからきている。実際、その編集者が勤務する出版社では、既刊書の継続的な販売による安定した収入はほとんど期待できず、収入の大半を新刊書の売上げに依存しているのだという。


・学術書は、研究成果の重要な発表媒体であるだけなく、大学院および学部レベルにおける最も有効な教育手段の一つでもあり、また研究成果を広く社会一般に還元・公開していく上でも不可欠の媒体である。とりわけ、人文・社会科学系の学問領域においては、込み入った複雑な内容の議論を、一冊ないし数冊の書籍という形式で展開することによってしか、議論の筋を構築し、確かな実証的根拠を示し、また広く伝達することにできない学術的な知がきわめて重要な意味を持っている。


・出版社はどのようにして、全体的な刊行ラインナップの構成や個々の書籍の刊行に関わる意思決定を、組織としておこなっているのか?

われわれは、右の問いに対する答えを探っていく上で、「複合ポートフォリオ戦略」と「組織アイデンティティ」という、相互に密接な関連を持つ二つの概念がきわめて有効な手がかりを提供すると考えている。


・比較事例研究の対象となった4社の概要

       ハーベスト社   新曜社  有斐閣  東京大学出版会(中略)

年間刊行点数  10点前後 40~50点  190~240点 120~130点(中略)

従業員・職員の合計 (2010年1月現在)
         1名    12名     95名    42名

編集担当者数    -     7名     56名      20名


・社会学関係の学術出版社の規模

 1~ 5名   17社 (28%)
 6~10名   13社 (21%)
11~30名   10社 (16%)
31~50名   10社 (16%)
51名以上    12社 (19%)

出所:日本社会学会「社会学文献情報データベース」より作成


・地方小(※地方・小出版流通センター)の場合、大手取次と比べて自社の取り分を示す掛け率が良く、歩戻しといった追加の負担や支払いの留保もない。(中略)それゆえ、地方小の開設な小規模な出版社にとってはヨリ有利な条件で口座が開設できるだけもで朗報である。


・専門書の発行部数は一〇〇〇~一五〇〇部であるので、日本人の全人口比で一〇万部の一の人びとが買ってくれればめだたく完売となる。

日本史関連の書籍を刊行してきた思文閣出版の川島勉 氏談


・学術書の製作費(中略)

ハーベスト社
(A5版・並製・208頁・1500部・本体1800円の場合、組版代・校正費を計上したケース)


組版・印刷     45万6000円 (45%)
用紙        18万円     (17%)
製本         8万2000円 ( 8%)
装丁代・PP加工  11万6000円 (11%)
運搬その他      3万1000円 ( 3%)
校正         5万2000円 ( 5%)
宣伝費       11万6000円 (11%)


岩田書院
(B6版・並製・212頁・700部・本体2500円の場合)


組版・印刷     40万5000円 (52%)
用紙         7万5000円 (10%)
製本         5万5000円 ( 7%)
運搬その他      2万5000円 ( 3%)
校正         3万5000円 ( 4%)
宣伝費       19万1000円 (24%)

※出所:ハーベスト社提供資料、岩田博『ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏』をもとに作成


・出版社の運営費(中略)

ハーベスト社

賃借料       164万円 (24%)
会費・図書費     10万円 ( 1%)
交際費        12万円 ( 2%)
交通費・車両維持費  60万円 ( 9%)
通信費        90万円 (13%)
支払手数料      40万円 ( 6%)
消耗品費      180万円 (25%)
その他       140万円 (20%)


岩田書院

賃借料       312万円 (27%)
荷造り運賃     246万円 (22%)
会費・図書費    112万円 (10%)
会議費・交際費    73万円 ( 7%)
交通費・車両維持費  94万円 ( 9%)
通信費         8.2万円 (1%)
保険料         7万円 ( 1%)
支払い手数料    106万円 (10%)
その他       138万円 (13%)


・一人であることは、出版活動上、さまざまなメリット・デメリットを生むことになる。まずメリットからいうと、第一に、新刊を出す際に企画会議にかける必要がないため、「意思決定が早い」という特徴がある。ただし、このメリットは、一人であるからこそ、知り合いから持ち込まれた企画を断ることが難しく、企画を立てる際にも「考えが自分の範囲をなかなか出ることができない」というデメリットと表裏一体の関係にある。


・新曜社 --- 「 一編集者一事業部 」(中略)

株式会社新曜社は、社長を含む従業員数一二名の学術出版社である。一九六九年の創業以来四〇周年の節目を迎えた二〇〇八年一二月までに、心理学、社会学、哲学を主たる出版ジャンルとして、およそ一〇七〇点の書籍を刊行しており、二〇〇九年末時点での総刊行点数は一一〇〇点以上に及ぶ。この一〇年ほどの平均的な年間の新刊刊行点数は、四〇点から五〇点前後であり、二〇〇九年度の売上高は、四億数千万円である。(中略)


創立時のメンバーは、いずれも、理工書系の中堅出版社である培風館に勤務していた五名


・新曜社(中略)

取引実績がそれほどない出版社の場合には、取次との取引条件、とりわけ「(卸し)正味」と呼ばれる、出版社から取次への卸値の掛け率に関する条件は、既存の出版社と比べ不利になることが多い。実際、当時本の定価に対する正味は、老舗の学術出版社の場合は七割四分前後であったの対して、新曜社の場合はすべての書籍について一律七割であり、それから、三パーセント程度の「分戻し」という、取次に対する一種の手数料が差し引かれていた。つまり、実質六割七分の正味だったのである。(中略)


この間に、取次条件も改善されていてき、一九七二年には定価別正味となって、比較的高額の定価の書籍については七割三分前後の正味を獲得することができた。これは、新曜社自身が刊行活動の実績を積み重ねていったことに加えて、一九七二年のいわゆる「ブック戦争」(書店組合の日書連が正味改訂をめぐる一連の交渉の中で一部版元の書籍に対しておこなった不買スト)が一つの契機となった。


・新曜社は、若手の研究者の「処女作」を数多く刊行してきたことでも比較的よく知られている。


・新曜社(中略)書籍の販路としては五パーセント前後の直接販売を除けば、その他の九〇パーセント以上は取次を介した一般書店ないし、アマゾン・ジャパンなどのオンライン書店による販売であるという。また、研究書にに関して著者自身による印税相当の部数の買い上げを前提として刊行することもあるが、それを超える部数については、ほぼ例外なく通常のルートにおける販売が前提になる。


・新曜社における刊行意思決定(中略)

個々の編集者と社長とのあいだの直接交渉である。


・編集者の場合はねえ、やっぱり、極端なことを言えば一人ひとりが個人的経営というかね。個人営業みたいなところがあるのだし。だから、どういう本をやろうかという企画については相談して、でも、全員で相談するというような、そういうことはなくて、担当者と私ですべては決めてきた。決まった仕事の進め方とかそういうのについては、完全に[それぞれの編集者のオートノミーに任せてきた。

堀江 洪 氏談


・学術出版の場合に限らず、出版の世界においては、一般に、充実した既刊書目録(バックリスト)と並んで、実力のある著者陣とその著者たちを介して形成させる人脈が、それと同じくらいに重要な財産であると言われてきた。


・有斐閣(中略)

「ユーザー・オリエンティド」ということ。読者のことを考えないで勝手に作ってはいけないということですね。視覚的に訴えるとか、一区切りを短くするとか、最後にまとめの問題を作るなどといった道具立てを用意し、知識というよりは見方から入ってもらえるようにしました。


・有斐閣(中略)

年間に出す単行本を二二〇冊とすると、単行本編集者の数は約四〇人だから、一人あたり五~六冊の新刊を担当しているということになる。(中略)編集部として目標としているのは、平均して一人あたり年六点の新刊を出すこと。そのほとんどは大学で使われる教科書だ。


・東京大学出版会は、第二次世界大戦後に国立大学では初めての大学出版会として創設され、二〇〇九年四月現在で四二名の常勤職員を擁する。日本有数の大学出版部である。創立から現在までの約六〇年間に刊行してきた書籍の総数は六五〇〇点を超える。


・東京大学出版会におけるこの一〇年間の平均的な年間新刊点数は一三〇点から一五〇点前後、一方、重版点数は年間百数十点から二三〇点前後であり、二〇〇九年度の売上高総額は約一三億六千万円となっている。


・東京大学出版会の場合にも、編集者は、企画立案者として一種のプロデューサー的な役割を果たすことが期待されてきたのである。


・出版の世界ではよく知られている事実であるが、刊行計画がいかに周到に考え抜かれたものではあっても、書籍の刊行は現実には当初のスケジュールどおりにはいかないことの方が多い。


・編集業務の三局面------「たて」(企画の立案)・「とり」(原稿の獲得)・「つくり」(狭義の編集作業)


・著者との人間関係や信頼関係に配慮するあまり、無理を承知で引き受けた企画であったとしたら、その関係は「しがらみ」と化しているといっても過言ではないだろう。(中略)


編集者には、基本的な立場の異なる著者とのあいだに、一定程度の信頼関係を作りつつも、適度に距離をとる必要性があると思われる。


・一編集者一事業部(中略)

編集者に大幅な裁量権を認めた方が、そうでない場合に比べてより効率的な業務活動が可能になる


・有斐閣の場合とりわけ目を引くのは、刊行意思決定の仕方が高度に制度化されていることである。編集者の発案した企画は、非公式な調整とともに編集部会・編集常務会という二つの会議を経なければならないが、ここでの検討は、場合によっては相当に厳しいものとなる。個々の編集者任せに事が運んでいくというようなことは、まずない。また、本の編集の仕方や体裁などに関しても、標準化・規格化が相当程度進んでいる。


・ある時期までは新書と言えば、一行あたりの字数が四二字前後で一ページあたりの行数としては一五ないし一六行であり、ページあたりの字数としては六百数十字のものが主流であった。これが現在では、全般に字数、行数ともに減少していく傾向が顕著であり、特に後発の新書シリーズに関しては、四〇字×一三行あるいは三八字×一三ないし一四行、つまりページあたり五〇〇字前後であることも珍しくなくなってきている。


・『出版月報』の二〇〇九年六月号の特集では、広い意味で教養新書と呼ばれている刊行物を以下の三つのカテゴリーに分類している。

①アカデミズム系------岩波新書・中公新書・講談社現代新書という「御三家」と呼ばれる新書シリーズに代表される、旧来タイプの教養新書

②ジャーナリスティック系------雑誌の特集記事のような時事的なテーマを中心に扱った新書やビジネス系新書など

③ノンフィクション読み物系------サブカルチャーに関する解説や報告、雑学書、タレントのエッセイなど


・大学出版部協会所属32出版部の概要

設立年   法人格  職員数  年間刊行点数(1~12月) 2007 2008 2009

※432ページ参照


・『書籍刊行------大学出版部における原稿獲得プロセス』(一九八九)を著した米国のメディア学者ポール・パーソンズ


●書籍『本を生みだす力』より
佐藤 郁哉 著
芳賀 学 著
山田 真茂留 著
新曜社 (2011年2月初版)
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