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森 臨太郎 氏 書籍『イギリスの医療は問いかける』(医学書院 刊)より

このページは、書籍『イギリスの医療は問いかける』(森 臨太郎 著、医学書院 刊)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・私も以前は日本で医療者として働いていた。地方で身を粉にして働く小児科医の一員であった。


・労働基準法を守っている小児科医などみたことがない。


・日本では一般的な規模の病院で働く小児科医は「何でも診る」のが普通である。けいれんでも診るし、心臓疾患も診るし、未熟児も診る。一方で、英国でも豪州でも小児科医というのは、さらなる「専門」を持ってはじめて小児科医である。


・専門分化の功罪(中略)

病人と病気は別物である。1人の患者に複数の病気があることがよくある。それぞれの病気についてそれぞれの専門家が診る傾向が強くなると、逆に患者をトータルとして診ることを忘れ始める。またどの専門の範疇に入るか微妙な状態というのもよくある。(中略)


全体のバランスをとるコーディネーター的存在が必要になる。


・電話を使った医療サービス(中略)

英国の電話サービスはNHS Directと呼ばれている。もちろん24時間無料で、ベテランの看護師さんが相談に乗ってくれる。日本との大きな違いは国単位で運営していることもかしれない。地域ごとにあるサービスセンターをネットワークでつなぎ、空いている電話にかかるようになっている。電話のサービスこそ距離は関係ないので、集中化させたほうがはるかに人的および設備資源の効率がよいので、日本でも地域ごとにせずに国単位にしたらどうか


・地下鉄では乗客がみな新聞を読んでいる、というのがロンドンの毎朝の風景である。騒音があまりにうるさくて新聞を読むぐらいしかできないということもあるが、政治に関心の強い国民性もあるというのはこじつけだろうか。(中略)


こうした政治への関心の高さが、実は患者・一般市民の積極的な政策決定への参加に影響しているのではないだろうかと考えている。


・英語で「良い」という場合にはさまざまな言葉を言い分ける。goodやnice、excellent、brilliant、fineなどなどいろいろあるが、すべて微妙に違う。Niceという言葉は、普通に良いときにも使うのだが、人を指して、「優しい」だとか、「親切」「人当たりがいい」というような意味で使う場合も多い。ちなみにexcellentというのは単に良い、悪いではなく、非常に優れているという場合に使う。


・高い設備投資に見合う価値があるのか、という点は病院経営者にとっても切実な問題である。そのとき、「儲かるから」ではなく、「得られる治療効果が設備投資に比べてどうか」という点が重要である。社会主義的運営母体を持つ英国の保険制度だからこそ、「儲かるから」ではなく「最大多数の人に最大幸福(健康)が得られるから」という考えに基づいて、進めていけるわけである。


・成熟した英国の会議運営(中略)

何かを話し合い決定する、最も効率の高い会議の大きさ=適正な人数というのは、そう変わるものではない。さまざまな研究から10~12人ぐらいとされている(中略)


会議の構成員が多くなると共同での作業が難しくなる


・日本の医療費は対GDPにおいて先進7か国で最低である。最小限のお金しか払わないのであれば、それに値するサービスしか受けられないのはこれまた物の道理である。


・医療の人的資源や物質的資源の集約化は不可欠である。これは単に効率を上げるというだけではなく、医療の質と安全性を高めるという目的がある。医療のどの分野においてもさまざまに専門分化され、1人の医師や人数の医療従事者で、高度な医療やプライマリーケアを提供することは困難になってきた。


・病院勤務の医師が開業する理由には主に3つあると考えられる。1つは医療のチームのなかで自分の裁定権の限界を感じ、長い臨床経験のなかで、「自分だったらこのような医療を行いたい」という思いを自由に実現するため、2つ目は、病院勤務が過酷になり、年齢や家族のことを考えて、もう少し自分の時間が持てるようにするため、3つ目は自分のキャリアのなかで、部長や教授に就けないと考えらるため、などである。


・医療従事者不足の背景(中略)

急速に人材確保が難しくなった背景には、新臨床研修制度の影響があることは否めない。新臨床研修制度以前は、医学部を卒業した医師はすぐに行きたい科を選び、それぞれの科の研修システムに入って一人前の医師となるべく勉強することになっていた。しかしこの新制度により、医学部を卒業した若手医師たちは、2年間さまざまな科を回って勉強し、全般的なことを習得してから科を選ぶということになった。(中略)

若手医師たちが勤務する病院を選ぶ際、出身大学の影響は強く、そのまま大学病院に所属することが多かったが、(中略)ずいぶん減ったと聞く。


・医療従事者不足の背景(中略)

新しい臨床研修制度では、医学部6年間プラス臨床研修2年間を終えてからそれぞれの科での研修が始まるので、一人前の医師が育つのに10年は最低必要である。こう考えると、10年先の状況を見ながら、長期戦略とともに短期の戦略も必要だと思われる。


・受益者負担の原則(中略)

例えば老人医療が無料化されて、どれだけの余分な薬が処方されたか、小児医療が無料化されて、どれだけ非常識な時間帯に非常識な理由で救急外来を受診する例が増えたか、医療従事者の間ではよく知られていることである。(中略)


夜中の2時に受診しても朝の10時に受診しても、同じ値段で同じ質の医療が受けられるのであれば、自分の行きたい時間に行くのがあたりまえであるが、提供する医療に要する費用は何倍も違う。


・小児救急電話相談(#8000)

※参考:厚生労働省にウェブサイトへ


・医療や健康を担うのは厚生労働省であるにもかかわらず、医学校の管理は文部科学省が担当することになっており、ここにゆがみの構造が存在している。


・私は豪州・英国7年間の滞在のなかで、医師として、研究者として、政策立案者として、この両国の制度を見てきた。そのなかで、日本との違いに対して常に驚きと好奇心をもって「なぜ違うのか」「どちらが良いのか」という疑問を自分に問い続けてきた。そして、「日本はこうすれば良いのに」ということをさまざまに考えた。


●書籍『イギリスの医療は問いかける~「良きバランス」へ向けた戦略』より
森 臨太郎 著
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