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外岡 秀俊 氏 書籍『作文の技術~名文記者が教える65のコツ』(朝日新聞出版 刊)より

このページは、書籍『作文の技術~名文記者が教える65のコツ』(外岡 秀俊 著、朝日新聞出版 刊)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・いい文章を書くには、次のような原則があるのだと思います。

①相手に正確に意味が伝わる。
②相手に誤解を与えない。
③相手に負担をかけない。
④心地よい読後感が残る。


・文章には、三つの要素があります。正確さ、わかりやすさ、美しさです。


・簡潔な文章を書く第一のコツは、「一つの文は、できるだけ短くする」ことです。(中略)いったん書き終えた後で、長文を短文にすると、文章はぐっとわかりやすく、簡潔な印象に変わります。


・文章を短くするには、まず読点で文章に切れ目を入れることです。(中略)ほとんどの場合、「~ので」とか、「~してみると」などでつなぐ表現は、そこで打ち切ることができます。とりわけ、文章の出だしは、簡潔にすることをお勧めします。


・不特定多数を相手にする文章では、基本的に、読者は書き手について、何の情報も持っていません。(中略)不特定多数を相手にする文章では、まず、書き手の「自己紹介」をする必要があります。さらに、この文章を書いているのは「いつ」「どこ」を想定しているかについて、文章の早い段階で、時間と空間の「位置情報」を示し、読み手に手がかりを与える必要があるのです。


もちろん、文章を「自己紹介」から始めるのは不自然です。(中略)不自然にならない程度にさりげなく、そうした情報を忍び込ませていくのです。


投稿文  私は2回の転職を経験し、今は夢であった雑誌を作る仕事に就いている。

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添削  私は2回の転職を経験し、今は、夢だった雑誌編集の仕事をしている。


・読点の打ち方(中略)

その基本は、「文章を読みやすくする」、「誤読を避ける」という二点でしょう。(中略)

②誤読を避ける。

ひらがなが続いて読みにくい場合、その切れ目に、読点を打ちます。


例文  高橋さんと親戚の小松さんが松井さんに会った。


この場合、「高橋さんと、親戚の小松さんが、松井さんに会った」であれば、高橋さんと小松さんの二人が、松井さんに会ったことを意味します。「高橋さんと親戚の小松さんが、松井さんに会った」であれば、「高橋さんの親戚である」小松さんが、松井さんに会ったことになります。いずれの場合も、「高橋さんと親戚の小松さんの二人が、松井さんに会った」とするか、「高橋さんと親戚の小松さんが、松井さんに会った」と補って、誤読を避けたほうが親切でしょう。


・主語を明確にする(中略)


例文  彼が、そう言った。
    彼は、そう言った。(中略)


「彼が」の場合は、「そう言ったのは、彼だった」というニュアンスになり、「彼は」とすると、「そう言った」のほうを、やや強調する表現になります。「が」と「は」を何度か言い換えて、どちらの落ち着き具合がいいのか、試してみてください。


・主語の転換(中略)

投稿文  先日、顔のシミをとるレーザー治療を皮膚科で受けました。

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添削   先日、皮膚科で、顔のシミをとるレーザー治療を受けました。(中略)


こうした場合、「皮膚科で」という場所の指示は、先にくるほうがわかりやすいと思います。「いつ、どこで」という限定が先にあり、「(私は)顔のシミをとるレーザー治療を受けました」という文章にしたほうが、のみこみやすいからです。


・平易な表現にする(中略)

投稿文  ならば、私たち一人ひとりが社会を変えるための意識改革をしよう。

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添削   それなら、私たち一人ひとりが社会を変えるため、意識を改革をしよう。


「四字熟語」+「する」という表現は、多くの場合、「2字を」+「2字する」に言い換えられます。「実態把握をする」は、「実態をつかむ」に、「周知徹底を図る」は、「周知を徹底する」にしてもよいでしょう。


・くどい表現をすっきりさせる(中略)

「回りくどい文章」は、足し算ではなく「引き算」、つまり不用な言葉や語句を省略することによって、読みやすい文章にすることができます。


・符号は。できるだけ使うのを避けるよう、お勧めしています。(中略)書き手とは違った意味でつかったり、解釈したりすることがありますので、誤解を避けるため


・重言を避ける(中略)

投稿文  人が羨むような理想のライフスタイル

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添削   人が羨むようなライフスタイル(中略)


「理想」は「考えられる最高の状態」ですから、「人が羨む」と意味が重なります。「理想」か、「人が羨む」のどちらかを省いたほうがいいでしょう。


・私が文章の師匠と仰ぐ疋田桂一郎さん


・実際の順路と違っていても、読者にとって読みやすいように工夫する。それが、疋田さんの編集の流儀でした。


・言葉を補う(中略)

文章では「読者に疑問を残さない」のが鉄則です。字数に限りがあって説明を尽くせない場合は、思い切ってその部分をカットします。(中略)「説明を補うゆとりがない場合には、むしろ削除して疑問を残さない」ことも、一つの選択肢と考えましょう。


・体言止めは使わない(中略)

不特定多数を相手にする文章では、こうした「体言止め」や「言いさし」表現は、できるだけ避けるよう、私はお勧めします。(中略)


不特定多数を相手に文章を書くときには、書き手が自分を相対化し、相手の立場からどう見えるのかを考える必要があります。あまり書き手の思い入れが強ければ、相手は思わず身を引いてしまいます。


・投稿文  散歩のたびに通る公園には、その場所の放射線量測定値が表示されている。

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添削    散歩でよく通る公園には、放射線量の測定値が示されている。


「放射線量」と「測定値」のあいだいに「の」を入れるだけで、ぐっと読みやすくなります。


・難解な用語を紹介するとき、どのようにしたら敬遠されずに読んでもらえるのでしょう。一つの方法は、あえてその難解さを強調し、垣根を低くすることです。


例文


大気に漏れた放射線が、どの範囲にまで広がっていくのか。国には、その影響をリアルタイムで予測するシステムがあった。SPEEDIというのだそうだ。舌を噛みそうになるほど、長ったらしい英語の頭文字を取った略語なのだという。正式名は、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」という。


(中略)「舌を噛みそうになるほど、長ったらしい」とお断りしておけば、読者が難解な言葉を受け入れる「助走」となるでしょう。


・文章を書く人の間には、「  。」派と、「   」。派がいます。かぎカッコの中の文章の最後に句点をつけるかどうか、という違いです。これは、どちらが文法的に正しいということはなく、好みの問題です。ただし、新聞や雑誌、書籍の多くは、「   」。派です。


・新聞記者には、二通りのタイプがあります。一つは特ダネ記者。文章や表現にこだわるよりも、鋭い嗅覚を頼りに、猟犬のようにスクープや特ダネを追いかけるタイプです。もう一つは、社会部でいえば、いきいきと情景を伝える「雑感記事」やルポ、企画をなどを好み、文章の細部にこだわるタイプです。


・レイアウト(中略)

書き手が意識する文章のまとまりで区切るより、数行ずらしたほうが、「もっと読みたい」という気持ちになる(中略)意味の区切りことに小見出しを置くのでは、堅苦しい論文のようになってしまいます。少し先に小見出しをずらして、興味をもってもらうほうがいい


・「敬語」よりも「敬意」を(中略)

投稿文  しかし、ご遺体は、ご遺族の元へは、返されなかった。

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添削   しかし、ご遺体は、遺族の元へは、返されなかった。(中略)


「敬語は一文で一回使えばいい」と考えています。(中略)人に対する敬意さえあれば、敬語で文章を飾り立てなくても、その思いは読み手に伝わるでしょう。


・漢数字と洋数字(中略)

「一部始終」や「一騎当千」、「七転八倒」、「九死に一生」、「一石二鳥」、「四苦八苦」などの慣用句も、すでに日本語に用語として定着していますから、漢数字を使うのが原則です。「一夜があけ」や「一日中」、「一番搾り」などの表現も、やはり漢数字のほうがしっくりきます。


・まず「設計図」をつくる(中略)

文章を書くには、次の手順で進めると、うまくいくことが多いと思います。

①テーマを決める。
②字数を計算に入れる。
③キーワードを考える。
④段落ごとにメモを書き、「設計図」をつくる。
⑤文章を書き始める。


・「論理的な文章」を書くコツとは、何でしょうか。次の方法を参考にしてください。

①まず、論点を箇条書きにする。
②賛成、反対の理由をそれぞれ書き出す。
③自分の主張を決める。
④相手の論点に反駁しながら、自分の主張を書き連ねる。
⑤そのうえで残る問題や課題に触れる。


・山場のつくり方(中略)

余計な部分をあえて省き、焦点を鮮明に合わせることが、文章の山場をつくる一つの方法です。400字くらいの文章では、一つの山場があれば十分です。


・かぎカッコには、文章のインパクトを高める機能があります、こうした使い方も、文章にメリハリをつけるコツでしょう。


・「場面」の描き方(中略)

どうすれば、「場面」を描けるようになるのでしょう。場面を描くには、二つのプロセスが重要です。「観察」することと、「配列」することです。(中略)「かわいらしい」と感じたら、なぜ、どこが、かわいらしいのかを観察します。それを、「かわいらしい」という言葉を使わずに表現するのです。


次は「配列」です。(中略)


主語を省略し、短い文章でたたみかけるのも、「場面」をいきいきとさせるコツの一つです。


投稿文  その時、ドアの向こうで泣き声がしたので、私は必死に扉を開けようとした。しかしカギがかかっているのか、ドアは少しも開かなかった。私は気ばかり急いで、動悸が早まった。

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添削   ドアの向こうで泣き声がした。必死で開けようとした。開かない。カギがかかっているのか。気ばかりせいて、動悸が早まった。


・日本語の文章には、姿と意味、余韻の三つの要素があります。象形文字の漢字を使っているだけ、欧亜語よりもニュアンスに富んだ、豊かな表現ができるかもしれません。


・文章を書く動機は、「この発見を人に伝えたい」とか、「この感動を分かち合いたい」という気持ちでしょう。しかし、「この発見」や「この感動」をストレートに書くのはでは、他人には伝えられません。自分が体験したことを「場面」で描き、淡々と描写することで、はじめて人にも受け入れられる文章になります。(中略)


投稿文  母は、自分の好き嫌いは後回しにして、家族の健康や好みを優先して、食事やおやつを用意してくれていたのだろう。親とは本当にありがたい。

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添削   母は、自分の好き嫌いは後回しにし、家族の健康や好みを優先して、食事やおやつを用意してくれていたのだろう。母と離れてみて、その気持ちが、少しだけわかってきたような気がする。


・推敲してみる(中略)

次の点に気をつけて文章を読み直すといいでしょう。

①誤字脱字はないか。
②過不足のない表現になっているか。
③わかりやすく、読者に負担をかけない文章になっているか。
④読み手に誤解を与えない表現になっているか。
⑤論理的に、正しい文章になっているか。


・推敲のもう一つの方法は、他人にじっさいに読んでもらうことです。ご家族や親しい友人など、歯に衣着せぬ、ずけずけと欠点を指摘してくれる人を選ぶのがコツです。「この表現、わからない」とか、「ここは意味が通じない」などの指摘があれば、素直に受け入れることにしましょう。


・「いい文章」や「優れた文章」を目指すのではなく、「伝わる文章」を目標に(中略)


「伝わる文章」に最も欠かせないものは、相手に対する「誠意」(中略)読み手に対する「誠意」とは、自分が書く日本語が不備であることを自覚し、さまざまな読み手を想像して相手の負担を減らし、誤解の芽を摘んで、意味が正確に伝わるよう不断に努力することを指します。


・書き出し(中略)

文章を書いたあとで、最初の数行と最後の数行を削れ、といわれたことがありました。最初と最後には、書き手の思いが強くにじんでいて、それが読み手にとってうるさく感じられることがある、という理由からです。


・書き出しでとても印象的なのは、ある場面の描写から入る方法です。いきなり見知らぬ場面が登場すると、読み手は面食らう一方、何が書かれているのだろう、と興味を抱きます。その描写が鮮やかであれば、読み手は最後までひきつけられ、読み進むことでしょう。


たとえば投稿文でいうと、


マンションの一室には水と、いくつかの一円玉が転がっているだけだった。2012年2月20日、埼玉県で親子3人が「餓死」したのだという。同じ埼玉県に住む者として特に印象に残った。このニュースを聞いた時「このご時世で餓死?」と驚いたのが本心である。


というふうに、印象的な場面を冒頭に持ってくる方法です。


・文章の冒頭は、できるだけ短く、が基本です。これは、読者の負担を減らし、その後の文章への敷居を低くして、入りやすいようにするためです。


・朝日新聞では2000人以上の記者が、毎日記事を書いていますから、1カ月のうちから1本を選ぶのは至難の業です。しかし、議論を重ねると自ずと候補を絞られ、1、2本にまで集約されます。


・「いい文章」の対象となる作品には、いくつかの特徴があると思い増ました。まとめてみると、次のようになります。


①簡潔でわかりやすい。
②記事が、過不足のないデータに裏づけられている。
③文章の運びにリズムがあり、思わず引き込まれる。
④疑問を残さず、完結している。
⑤心の機微に触れる描写があり、文章に深みがある。
⑥いきいきとした臨場感がある。
⑦「わが事」だと読者に思わせ、共感を呼ぶ普遍性がある。
⑧しみじみとした読後感がある。


・いいひと賞④ 菊池健彦さん(51歳)
「『ひきこもり留学』で英語の先生になった」  (2011年2月6日付)


 営業のノルマを果たせず、34歳で会社を辞めた。6畳1間のアパートにひきこもる。そのうち何もしないことに疲れ果てた。英会話の入門書を買い、英語の勉強を始める。名づけて「ひきこもり留学」。


 なにしろ時間はたっぷりある。英語の雑誌を1日1ページ読み、わからない単語を覚える。それを毎日繰り返す。聞き取りは海外ドラマを録画して何度も再生する。電子辞書のカバーは手作り。お金をかけずに工夫するのが楽しい。単語を覚えている間は将来の不安から解放された。

 
 誰とも話さずに一日は終わる。外出先はスーパーと本屋。食事は1日500円と決め、夕方の安売りをねらう。レジの女性から笑顔で「またお越し下さい」と言われても、「ありがとう」とこたえる勇気がない。ただうなずくだけ。これが社会との唯一のつながりだった。


 7年後、貯金が底をついて、重い腰をあげた。英語講師に必要だという試験を受けに行ったら「あまりにも簡単だった」。


教える立場になり、企業に派遣されたり幼児を相手にしたり。「何歳だって生きている限り勉強できる。忘れたら、また覚えればいい」


難しい母音の発音も「般若の顔でア」と言えばネーティブに近づく。独自の勉強法は「最強英語術」という本になった。英語のコミュニケーション能力を評価するTOEICで満点はこれまで24回。海外にはまだ行ったことがない。


(文・中村真理子)


●書籍『「伝わる文章」が書ける作文の技術~名文記者が教える65のコツ』より
外岡 秀俊 著
朝日新聞出版 (2012年10月初版)
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