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田口 幹人 氏 書籍『まちの本屋』(ポプラ社 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『まちの本屋』(田口 幹人 著、ポプラ社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・二〇一一年三月一一日。東日本大震災(中略)店を開けると、お客さまがなだれ込んできたのだ、と現地のスタッフは話してくれた。とにかく何でもいいから本を、とみんなが奪うように買っていったのだという。(中略)


そのときに、なぜ本だったのか。僕は想像した。少しでも日常を取り戻すために、いつも身近にあった何が手に入らないか。そう考えたとき、誰かもが思い出したのが本だったのではないか、と。


・今の書店員には想像がつかないかもしれませんが、当時、返品はすべて手書き伝票を書く必要があったのです。雑誌からすべて、自分でコードを調べて書き入れていく。(中略)


でも、これが僕には宝になりました。返品担当のところには、どの本が売れて、どの本が売れないのか、


・伊藤清彦(中略)さんには本には“旬”があるといつも語っていました。新刊だから旬というわけではない。古い本でも旬がやってくる。そのタイミングで、いかにお客さまに提案ができるか。それが書店員には問われるのだ、と。


・たとえば、伊藤さんは雑誌売り場に何をしたか。朝と夜で、平積み商品を入れ替えていました。なぜなら、お店に来るお客さまの層が、朝と夜で違うから。


・伊藤さんは現在、一関市立図書館の副館長を務められています。


・『永遠の0』(百田尚樹著/太田出版)がそうでした。伊藤さんのさわや書店での最後の大仕事と言ってもいいと思います。単行本として発売されて一年が過ぎた頃のことでした。さわや書店ではまったく動かない。売れていない本でした。


・出版社が店に来て驚かれていましたが、僕たちは多面展開をほとんどやりません。大展開といっても、多くで三面ほど。(中略)一点置いて、売れたら補充、が基本です。限られたスペースがもったいなからです。


・『永遠の0』(百田尚樹著/太田出版)(中略)は文庫になり、(中略)さわや書店フェザン店だけで、文庫は九〇〇〇冊以上売れています。


・こだっているのは、独自色を鮮明に打ち出す、ということです。(中略)僕たちが大事にしているのは、「一冊一冊にこだわりを持って売る」ということに対する情熱です。これだけは負けないぞ、という気持ちです。


・実はフェザン店も、入り口付近は過剰なくらいにパネルやPOPをつけてにぎやかな店頭を演出しています。そのほうがお客さまに手にとっていただくきっかけになりやすいと思っているからです。


・たとえば、バスのターミナルの関係なのか、フェザン店にはなぜか年配者がたくさん通っていく一角がありました。そこで、僕たちはそこを年配者向けのコーナーにしてしまいました。ここにコーナーがあるから来てください、ではなく、こちらから行くのです。そのスペースには、健康関連の書籍が固めて置いてあり、


・仕掛けて火がついた一冊に、『身近な雑草のふしぎ』(森昭彦著/ソフトバンククリエイティブ)があります。(中略)解説がしゃれています。スズランの解説が、「こんな子だったら付き合いたい」なんてフレーズで終わっていたりする。面白いと思いました。読んで虜になってしまった。(中略)


この本は最終的に、フェザン店だけで九〇〇冊以上売れました。その後、他の本屋でも火がついていったと聞いています。(中略)


この本の隣に、「さぁ、歩こう」というPOPを立てて、『歩くとなぜいいか?』(大島清著/PHP文庫)を隣に並べました。そうすると、年配のお客さまがちゃんとセットで買って下さったりする。


・コミックの発売日を書いておく。さらに前巻の発売日も書く(中略)

コミックの新刊についても、「この巻は何月何日に入荷しました」と書いて、同時に「前の巻が何月何日に発売しています」という情報も添えています。実は、これがコミックの読者にとってはものすごく大事な情報です。どの巻まで読んだのか、巻数をみなさんはっきりと覚えていないことが多いからです。(中略)店頭で問い合わせがものすごく多かった


・週刊誌は返品期限が四五日、月刊誌は六〇日。いずれは消えていくことになりますが、ムックには返品期限はありません。だから、ムックをどう使うかで、自分の店らしい雑誌コーナーの特徴をつくっていくことができます。


どんなものが、いつのタイミングで売れていくか、ということも、ムックに関しては通年データがあることが多いです。


・僕たちにとっては全国で売れている本であるかどうかは関係がないのです。他所で売れていても。僕たちの店で売れるとは限らないからです。データ重視、ランキング重視の売り方というのは、要するにそういうことを引き起こしかねない可能性があるのです。


・本屋には、まずお客さまにここを見てほしいという棚があります。それは多くの場合、新刊や時事の棚でしょう。


・小説を読むという行為は、作品世界を追体験することになるので、その問題に自然と当事者意識を持つことにつながります。これが、小説の持つ力なのでしょう。


・新刊のタイミングが売るのにベストなタイミングとは限らないのです。


・本屋が数字が上がらないことを取次のせいにしたり、出版社のせいにしたりすることがあります。自分たちが「やらされている」という意識だから、そうなっているのです。やっているのではなく、やらされている。自分たちの責任でできていない。商品である本だけなく、責任まで「委託」になっているのです。


・かつての出版社の営業の方は、自社の本だけではなく、他社の本の話をされる方も多くいました。自社の本を売るためには、他社の本とどう組み合わせて展開するのがよいか


・今は、データで自動的に返品できてしまう。(中略)売れる理由と売れない理由を考えたりする必要もなくなります。データが、売り場の本当の姿を見えなくしているリスクがある。


・著者にも地域にも出版社にも喜ばれるタイミング

さわや書店だけで九〇〇冊を売った新書図鑑『身近な雑草の不思議』(中略)著者がお店に行きたいと言っている(中略)待ってほしいとお願いをしました。(中略)


著者にも出版社にも喜んでもらえる。そんなタイミングがあると思いました。(中略)


このときは、ラジオと新聞を組み合わせました。著者にラジオに出ていただいて、新聞の書評コーナーでも取り上げました。(中略)他の本屋でも目立つところに置いてもらうようにしました。こうすると、大きな効果が出ます。岩手県だけ、ポーンと売り上げが上がるのです。


そして、もう一つの切り札を用意しました。地元の読者との交流イベントです。(中略)本を買ってくださった読者と著者が、一緒に近隣の野草を見に行く、というイベントでした。そして摘んできた野草を天ぷらにして食べる、なんてことまでやったのです。


・本の多様性を最も担保しているのは、やはり大型店舗なのです。それは中型店にはできないことです。(中略)そうした大資本が参入することで、地域の中で本を扱う空間が充実していくのです。読みたい本が、行けばいつでもある、見つけられるという安心感。これが担保されるから、本を読む人も増えていく。大資本出店の意味合いは、とても大きいのです。


・本屋の未来は、自分たちでつくる(中略)

全国の書店員一人一人が、一日一冊ずつ余計に本を売ろう、となったら、たいへんな数の本が売れていきます。それをみんながどのくらい意識できるか。自分たちが、出版業界を支えているのだという自覚が持てるかどうか。


●書籍『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』より
田口 幹人 著
ポプラ社 (2015/11/14)
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