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岩野 裕一 氏 書籍『文庫はなぜ読まれるのか』(出版メディアパル 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『文庫はなぜ読まれるのか』(岩野 裕一 著、出版メディアパル 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・日本を代表するミステリー作家である内田康夫氏は、2007年1月にデビュー以来の著作の累計部数が1億部を突破したのだが、そのうち文庫本で刊行されたものはどのくらいだろうか?(中略)


①25パーセント ②50パーセント ③75パーセント(中略)


正解は「③の75パーセント」(中略)発行部数約1億30万分のうち、四六判約680万部、新書判約1920万部、文庫判約7430万部(中略)


文庫というのはきわめて大きな比重を占めており、このジャンルを無視することができないはずである。


・「叢書(双書)」(そうしょ)という言葉もかつては「文庫」と同義に用いられていたため、文庫史の記述においてはそのまま使用している。


・出版で文庫という形態には2つある。

(1)装丁・版型などを一定にし、特定の主題をもって限られた冊数で完結するような計画された出版物。たとえば〈いろは文庫〉〈帝国文庫〉〈有朋堂文庫〉のほか〈花嫁文庫〉〈料理文庫〉などがあるが、これは〈全集〉とか〈叢書(双書)〉とかいわれるものと同じである。

(2)叢書的性格のものではあるが、終期を定めず、とくに廉価普及を目的とし、古典的作品や既刊の著作を携帯に便利な小型の形態にした一群の出版物。〈文庫本〉とも呼んでいるが、これは岩波書店がドイツの〈レクラム文庫〉を範として1927(昭和2)年に創始した〈岩波文庫〉を発端とし、ついで〈文庫〉の名称を付して続出した〈新潮文庫〉〈改造文庫〉その他によって〈文庫版〉〈文庫判〉(菊半裁判A6判)の呼称とともに一般に定着した。以来、戦後においても出版物の一形様として各種のものが数多く刊行された今日に至っている。


・布川角左衛門は「文庫本」に共通する概念として、次の7点を挙げている。


1.出版物の種類として一定の名称、つまり多くは「文庫」の名のもとに終期を定めず発行されている双書的なものであること。


2.出版方針として古典的な著作や著名な既刊書を収め、何よりも普及を目的としていること。


3.体裁としては携帯に便利なように小型で、しかも軽装版であること。


4.量産を目ざし、廉価であること。


5.自由分売であること。


6.多くは文庫の名称を付してはいても、それが決定的な要点ではなく、例えば平凡社の『東洋文庫』などは入らないこと。


7.普及を目的とする軽装版であるといっても、いわゆる「新書版」とは区分されていること。


・現在、文庫を刊行している出版社とそのレーベル名(「○○文庫」という名称のこと。シリーズ名とも)の全体像を把握するのは、容易ではない。出版科学研究所によれば、2011年には115社から208レーベル(うち創刊9レーベル)が刊行されたという。


・『出版指標年報』に見る文庫刊行版元数の推移


・1975年からは一般の書籍よりも正味が低い「文庫正味」という制度が設けられた。文庫は低価格で書店にとっては利幅が薄いため、正味を下げることで書店のマージンを増やしたのである。さらに84年には、文庫本発行出版社の増加にともない文庫正味の見直しが出版社個別に要請され、翌85年7月までに1~3パーセント引き下げられた。


・書籍と一般文庫の比較


・一等地を抜く角川書店の文庫戦略(中略)

角川書店は98年4月から1年間、角川文庫創刊50周年を記念して、「文庫1冊について書店に40円、取次会社に最高10円の特別報酬金を支払う」と発表した。通常、「文庫スリップの報酬金は1円か2円、最高でも10円」程度であり、書店にとってはきわめてメリットの大きいこのキャンペーンにより、角川書店は新規常備店3千店を獲得し、大幅な棚の拡大に成功した。


・2000年から10年間の文庫市場における特徴的な動きを分析するならば、次の4点が挙げられるだろう。


①書店発のベストセラーの登場。書店員が厖大な既刊書の中から「売りたい本」「お勧めの一冊」を掘り起こして、手書きPOPからベストセラーを生み出すという成功事例が生まれ、いまや文庫販売の手法として広く一般化した。


②映像とタイアップのさらなる強化。「映像化」は文庫が売れる必須条件となった。上中下3冊で1年間815万部を売った『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)や、東野圭吾に代表される人気作家の作品の爆発的な売れ行き、松本清張、司馬遼太郎、山崎豊子などの再ブームは、映像化と切り離して考えることができない。


③ライトノベル系作家の一般文庫への進出によって、幅広い年齢層に受け入れるられる優れた作品が多数生まれるようになった。


④ベストセラー作家の作品、各種の「ランキング」で取り上げられたベストセラー本に、読者がますます集中するようになった。


・電子書籍時代の「文庫」とは(中略)

コンテンツの二次的利用には著作権者と何らかの契約を締結することが不可欠だが、これまでも文庫出版をめぐって出版社間あるいは著作権者と出版社のあいだで裁判が争われた事例がある。その代表例として、1980年に早川書房と徳間書店が争った「太陽風交点事件」と、1997年に宝島社と著者の柳田理科雄を争った「『空想科学読本』事件」を紹介する。


・電子書籍と出版契約(中略)

紙の出版に限られる「出版権」とは別に、「複製権」(同21条)や、「公衆送信権」と「送信可能化権」(同第23条)、「口述権」(同第24条)などにかかわる権利処理を改めて行う必要があるほか、今後ひとつの作品を多様な形で展開していく「ワンコンテンツ・マルチユース」の著作権ビジネスに対応していくためには、電子化をはじめとしたあらゆる二次的利用が可能となるよう、著作権者と事前に明確な取り決めを行い、契約書に明記しておくことがどうしても必要となってくるのだ。


・出版権とは(中略)(すなわち契約すること)によって得られる専有権であり、「『自分で出版できる権利』ではなく、『無断で他人に出版されない権利』」と考えたほうが、むしろ理解しやすいかもしれない。


・単行本を文庫にするタイミングが「親本の刊行から3年後」というケースが多いのは、著作権法が、出版権の存続期間を「その存続期間につき設定行為に定めがないときは、設定後最初の出版があった日から三年を経過した日のおいて消滅する」(第83条)と定めていることを参考に、親本に設定された出版権が消えたのち、文庫について著者と新たに出版権を設定する、という方式論ゆえのことであった。


・新潮社 電子書籍 基本宣言


一、 電子書籍は、情報が氾濫するネット環境においても「作品」であり、長い年月に耐えうるものを目指さなければならない。


一、 電子書籍は、人々の豊かな知的生活に貢献するものであり、ネット習熟度の高低や機器の差異がそれを妨げるものであってはならない。


一、 電子書籍は、人々と書籍の偶然かつ幸福な出会いをもたらす書店とも共存共栄を図らなくてはならない。


一、 電子書籍は、紙の書籍と同様に、作品を生み、広め、読む人々の環の中で育まれるべきものであり、外部の論理に左右されてはならない。


一、 電子書籍は、紙の書籍と相和し、時に切磋琢磨して互いの向上を図るべきものであり、けっして対立したり侵食しあったりするものではない。


・出版統計についての基本的な問題点(中略)

「検定教科書、直販ルート、一般市販されない官庁出版物は含まれないため、日本のすべての出版物を対象にしているわけではない」。公正取引委員会が1992年に行った調査では、書籍の68.7パーセントが取次経由で流通しているというから、検定教科書を除いても直販ルートは2兆円の7割、6000億円程度の売り上げ規模があると推測できる。


・出版産業全体でとらえるならば、雑誌広告の売り上げ総額3034億円(2009年)、電子書籍のコンテンツ販売額574億円(同)と電子辞書のメーカー出荷金額427億円(2008年)の合計額1000億円などを加えることが必要となるはず。つまり、出版産業は「2兆円産業」ではなく、実体としては「3兆円産業」なのである。また、出版社ごとに売り上げを精査していけば、通信教育部門や不動産部門など、出版業以外での収益源を持っている会社も少なくないことから、さらに大きな産業という見方もできるだろう。


・『出版年鑑』と『出版指標年報』のデータの違い(中略)


出版ニュース社が毎年発行している『出版年鑑』(中略)
出版科学研究所が同様に毎年発行している『出版指標年報』(中略)


両者に掲載されている「新刊点数」や「販売部数」「販売金額」の数字は一致しない、その原因としては、おもに次の3つの要素が考えられる。


1.データ収集の方法論の違い(中略)


出版科学研究所の『出版指標年報』の場合は、取次の仕入れ窓口(中略)に持ち込まれた書籍の新刊伝票をカウントすることを基本としてきたが、『出版年鑑』は国立国会図書館が作成する書誌情報をもとに新刊を記録することから始まり、1988年に「株式会社書籍データセンター」が設立されてからは、同社が作成するデジタル書誌データを用いるようになった。


2.データ収録期間の違い

『出版指標年報』の場合は、奥付に記載された発行日付ではなく「取次への搬入日」を基準としている。一方『出版年鑑』は奥付記載の発行日付を基準とする。(中略)


3.ムック収録の有無


『出版指標年報』の場合はムック(雑誌扱いの書籍)を書籍から除外しているのに対し、『出版年鑑』はISBNコードの付いているムックを書籍として扱っている。これによって、近年の統計では『出版年鑑』の新刊点数のほうが数千点以上も多くなっている。


・ここまで細かく見てきたように、『出版指標年報』で文庫に関する正確な数字を置くのは至難の業


・文庫の「ベストセラーランキング」に関する考察

■なぜ文庫はランキングから外されるのか?(中略)

その理由について関係者に取材したところ、おおむね次のような返事が返ってきた。


1.文庫本を年間ベストセラーランキングに入れてしまうと、上位をすべて文庫本が占めてしまいかねない。


2.年間ベストセラーランキングの発表は、本への世間の関心を高めて売るための方策のひとつでもあるので、単価の安い文庫はできれば除外したい。


3.文庫本は、その年に出た本とは限らないので、年間ベストセラーになじまない。


・岩波文庫の累計ベストセラー


・新潮文庫の累計ベストセラー


・講談社文庫のベストセラー


・オリコンの文庫ベストセラーランキング(2008年~2011年)


・音楽ヒットチャートの情報を提供するオリコン株式会社(中略)同社によれば、出荷部数ではなく実売部数のみをベースにした全国規模の書籍ランキングは国内で初めての試みであるという


・トーハンでは週間、上半期、年間の3サイクルでベストセラーを発表している。荷は週間、月間、上半期、年間の4回である。

●書籍『文庫はなぜ読まれるのか~文庫の歴史と現在そして近未来』より
岩野 裕一 著
出版メディアパル (2012年11月初版)
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