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星野 渉 氏 書籍『出版産業の変貌を追う』(青弓社 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『出版産業の変貌を追う』(星野 渉 著、青弓社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・出版物は“売れるものを作る”のではなく、“作るべきものを売る”という考え方が一般的


・「出版不況」の正体とは(中略)

社会では「出版不況」という言葉が定着しているように思われる。この言葉はしばしば「活字離れ」「本離れ」といった言葉とともに使われているが、これから想起される「本が読まれなくなった」=「出版業界の不況」という図式は必ずしも正しくはない。そこには、日本独自の出版産業構造に起因する要因がある。

・取次各社の業績からも明らかなように、この流通システムはこれまで雑誌の収益によって維持されてきた。取次も大手出版社と同様に、雑誌が書籍を支える内部補助の構造だった。

その雑誌から収益を得られなくなれば、収益性がより低い書籍の流通コストをまかえなくなるおそれがあり、物流の面から見ても雑誌の不振は書籍に影響を及ぼすのだ。


・集英社はコミック界のトップブランドである「週刊少年ジャンプ」を擁する出版社なので、キャラクターを生み出しやすく、権利ビジネスの経験も豊富だという背景がある。


・かつては、書店から売上カードを回収するために、主要出版社の多くが、書店へのインセンティブとして売上カード一枚あたり一、二円程度の報酬金を支払っていたが、売上カードを送るかどうかはあくまでも個々の書店の意志に任されていた。また、書店側は売上カードを溜めて、年に一回程度のサイクルで送付していたため、収集されたデータはリアルタイムのものではなかった。この方法は、市場のニーズを把握するというよりは、出版社が自社商品を販売した書店に報いるとともに、その書店の販売力をみて、新刊書を配本する場合のランクを決めるために使うという意味合いが強かった。


・二〇一二年の一万四千六百九十六店という書店数は、以前より大幅に減ったとはいえ、海外と比較すると決して少なくはない。それどころか、これほど書店が多い国は、日本以外に聞いたことがない。


・日本の「書店」が海外の「書店」と大きく違う点は、「書籍・雑誌」を販売してることだ。欧米主要国やアジアの近隣諸国で「書店」に入っても、書籍しかないことが多い。


・そもそも本来の取次は偏った配分などしない。取引先の書店に均等に配分することを是とする仕組みなのだ。それでも「配本」されないのは、ベストセラーのように需要が多くて供給が追いつかない場合か、そもそも発行部数が少なくて市場に行き渡らない場合が多い。


・日本の書店減少の深刻さは、この新規参入がほとんどみられない点にある。


・現在、日本で流通可能な書籍は約八十万点といわれ、さらに一日平均二百点以上の新しい書籍が発行されている。(中略)こうした大量の書籍のなかから選び出された本が、書店の棚に並んでいる。


・魅力を発揮する書店に共通しているのは、取次の「配本」への依存度が低く、自ら本を選んで仕入れているということだ。


・アメリカの書店組合ABAのマーケティング戦略(中略)

ベストリポートは来週月曜日に四百書店から前週のPOSデータを集めて作成している。読者が売れ筋情報で本を買うという調査結果から、ブックセンス自身がベストセラーリストを持つ重要性を認識したものだ。


・日本特有の産業構造(中略)

つまり、多くの国、少なくとも欧米などの主要先進国で「書店」といえば書籍を販売する小売店を意味し、雑誌やマンガはほとんど販売していないのだ。


・デジタル化で広がる出版の契約

出版社が本を出す場合、文芸書では契約を交わす例は少なかった。医学書や理工学書といった専門書では従来から契約を結ぶ習慣があるが、日本を代表するような大手出版社でも、文芸分野については著者が事務所を通す場合など限られたケースだけだったという。(中略)

文芸分野ではトラブルが起きにくい構造があった。


・ある大手の文芸出版社では、以前一〇%ほどだった著者との出版契約の締結率が、最近では四五%ほどに増えているという。さらに、電子本化にあたってのデジタル化契約は、ほぼ一〇〇%に達している。


・「絶版」にはなっていないが「手に入らない」本のことを、「品切れ増刷未定」と呼ぶ。出版社と著者の契約は生きているが、品切れのまま放置されてるという意味だ。


・海外に広がる日本の出版コンテンツ(中略)

特に韓国では日本の文芸作品が数多く翻訳出版されていて、二〇〇五年のデータだが、最大手書店の教保文庫の文芸賞ベスト百位のうち、韓国人作家が二十二人だったのに対して、日本人作家は二十七人に達していた。この傾向はいまも続き、主要書店には「日本小説」のコーナーがある。


・ドイツの出版業界が描く将来像「五十五のテーゼ」(中略)

ドイツ出版業界が予測した自分たちの未来(中略)

出版社・取次・書店などのが加盟する公益業界団体・図書流通連盟だ。すなわち、こうした厳しい将来は、学者や新しいメディアの担い手など外部からではなく、出版業界人自らが予測したものなのだ。


・もともと韓国の出版市場は輸入超過の状態にある。(中略)

韓国で二〇一二年に刊行された新刊書を三万九千七百六十七点のうち、翻訳出版物の割合は二五%から三〇%に達し、国別では、コミック(マンガ)を含めると、日本は三千九百四十八点(マンガが二千三点)で、翻訳書の三九%を占めている。


・東京国際ブックフェアの成り立ちと今後

二〇〇七年で十四回目を迎えた東京国際ブックフェア(中略)

パンローリングは、書店との直接取引によって翻訳ビジネス書を中心に刊行してきたが、最近は復刻マンガに力を入れ、二〇〇七年は入り口付近に大型ブースを出して、多くの来場者に復刻マンガをアピールしていた。(中略)

これらとは対照的なのが、大手出版社のブースだ。書店向けの窓口さえ設けずに、読者向け割引販売やパネル展示でお茶をにごしたり、なかには商品を並べるだけで販売も受注もしないで、明らかに業界行事へのお付き合いという姿勢がありありの出版社もある。


・この十年間にわたる“出版不況”の最大の特徴は、雑誌の需要低下だといえる。


・雑誌不振の意味について二つ述べておきたい。一つは、雑誌不振の理由は一時期的な不況の影響や、コンテンツの質の問題ではなく、情報流通の変化にあるということであり、もう一つは、雑誌不振を克服するためには、“雑高書低”といわれてきた、これまでの出版産業の収益構造自体を転換しなければならないということだ。


・アメリカでは、「Kindle」サービスを開始して五年目にあたる二〇一二年に、電子書籍の市場規模が紙の市場の三割程度に拡大し、紙の書籍の販売量がロマンス、ミステリーなどを中心に二〇%ほど縮小したという。一方で同じサービスが始まったドイツやフランスでの伸びは、それよりも鈍いようだ。


●書籍『出版産業の変貌を追う』より
星野 渉 (著)
出版社: 青弓社 (2014年5月初版)
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