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[ 出版業界のトピックス ]

東大生の本なぜもてる?

受験勉強法や株、お役所用語まで…

現役の東大生が書いた解読本の出版が相次いでいる。受験勉強法から株やお役所用語まで……。どの本も売り上げは順調というが、東大生といえども社会経験に乏しい若者。その著書がなぜ持てはやされるのだろうか。一方で学生たちの間にも最近、出版熱が高まっている。本の企画を出版社に売り込むイベントを開くなど、プログとは違った表現の世界に魅力を見いだしている。

~著名人に負けぬブランド~

最初の東大生本の先駆けは、04年に出た「東大生が書いたやさしい株の教科書」だ。大学生と教師との会話形式で、株式投資のイロハを教える。出版したインデックス・コミュニケーションズによると現在、13万2千部に上るという。

著者は東大の株式投資クラブに所属する法学部生ら7人。出版を持ちかけた書籍企画編集部の川辺秀美編集長(38)は理由について、「東大は全国ブランドだから」と話す。「慶應生が書いた株のすゝめ」も出したが、1万3千部止まりだった。「東大のように地方での神通力はなかった」

ビジネス本があふれる昨今、注目を集めるには、誰が書いたのかが重要という。だが、著名な経済評論家は自身の世界観や表現へのこだわりが強い。その点、東大生は編集者の意向を素直に受け止めて、勉強の労もいとわない。しがらみのない立場で書け、若いので徹夜も平気。そうした編集のしやすさも利点に挙げる。

今年1月には「東大生が書いた頭が良くなる算数の教科書」を出版。シリーズで「数学」「物理」と出す予定だ。東大生の勉強法から論理的思考を学び取る狙いで、若いビジネスマン向け。「今の読者は同世代の考え方に共感する。東大の学生なんかに教わりたくないという反発やねたみは、意外と少ないんです」

昨年テレビドラマ化されたマンガ「ドラゴン桜」。そこに紹介された東大受験のテクニックを、現役東大生に検証させたデータハウス発行の「東大合格方法」は5刷まで版を重ねた。「東大ブーム」をとらえて1月には、「東大合格への数学」を出版した。

過去の入試問題を、医学を専攻する理科3類の学生が独自のテクニックで解き明かす実践的参考書だが、公式を連ねての解説は難解。「間違っているのかどうか、編集部でも検証不能」という本だ。鵜野義嗣社長は「のびのびと発想し、ゲームのように数学を楽しんでいる。大学生のレベルが低下したといわれるが、そうとも言えない一面を伝えたい」と話す。


~学生自ら企画売り込みも~

学生自身も本づくりに注目し始めている。東大や早稲田、慶応などの現役生でつくる出版サークル「PICASO」は1月、「東大生が書いたお役人コトバの謎」(三省堂)を出版した。国会答弁などでの官僚や政治家の発言を取り上げ、その言葉が生まれた背景や役人体質を批判する。普通に会話をしていた先輩が、官僚になるとどうして意味不明な言葉を使うようになるのか、という疑問が出発点だった。

サークル内の東大生8人が半年かけて編集。アイデア出し合って作業を分担し、締め切りをにらんで進めてきた。そうした過程で「論理的な考え方や物づくりの楽しさを実感できた」と代表の東大文学部2年、須田悠太さん(21)。

出版社に学生ならではの企画を売り込もうと、PICASOのメンバーが中心になって昨年10月には、「出版甲子園」を開いた。大学生協に掲示して企画を募り、集まった107点から実行委員らが18点を選定。14社の編集者を集め、1人3分で披露して採点するオーディションをした。

グランプリは東大文学部3年の長谷川裕さん(21)の「これでいいのだ!スタートラインの国語」。塾講師で中学生向けに作った教材のユニークさがかわれ、12社から出版をもちかけられたという。

青山学院大の女子学生が「電車内で美人になる」をコンセプトに、つり革を使ったエクササイズなどを考案した「美人電車」、性感染症の体験を同世代に向けて伝える女子学生の性の啓発本など、5点の出版化が進んでいる。

出版甲子園実行委員長で東大文学部3年の加藤昌也さん(21)は、「ネットで情報がはんらんする今だからこそ、責任をもって形に残す出版物に価値がある。学生のアイデアが出版界に活気をもたらすものになれば」と話している。


朝日新聞 2006年2月9日より