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[ 出版業界のトピックス ]

PC雑誌 もういらない?

●ネット普及し次々廃刊

 パソコンを対象とした雑誌が、次々と消えている。パソコンやインターネット人口が増え続ける中で、導き手のはずだった役割はかえって逆風に直面しているようだ。「ネットが雑誌を殺す」時代の先駆けかも知れない。


 「まるでドミノ倒し。パソコン情報はネットと一番親和性があるから、ある意味、必然だろう」昨年12月を最後に休刊した雑誌「PC USER」(ソフトバンククリエイティブ社)の田中宏昌編集長は振り返る。94年に初心者向けの「ハローPC」として創刊、翌年の「ウィンドウズ95」発売で巻き起こったブームに乗って一時は10万部を超えたが、00年以降減り続けた。初心者以外にも読者層を広げようとしたが、休刊時には約2万部まで落ち込んだ。

 昨秋以降、「ASAHIパソコン」(朝日新聞社、88年創刊)、「日経クリック」(日経BP社、94年)、「インターネットマガジン」(インプレス社、同)など、創刊10年を超える「老舗」雑誌の休刊・廃刊が続く。

 パソコン誌は80~90年代のパソコン普及とともに次々と創刊された。操作法や、普及し始めたインターネット技術を解説することで、初心者の道案内役になった。

 最盛期の00年には上位9誌の合計は約150万部に。しかし、グーグルに代表される検索エンジンが普及し始め、下り坂に。05年にはほぼ半分の80万部まで落ち込んだ。

 ASAHIパソコンの勝又ひろし編集長はブロードバンドの普及を衰退の「決定打」に挙げる。
 「雑誌に載っている情報の半分以上は、ネットで無料で手に入る」からだ。2月末発売の最終号に「皮肉だが、パソコンの普及でパソコン雑誌が不要になった」と記した。

 IT系広告会社「fx」の舩津章代表は「パソコンでやりたいことは主にメールとインターネット。これだけなら雑誌が必要ないとわかってしまった」と指摘する。

●サイトへ移行 経営黒字

 ソフトバンクグループは昨年10月以降、「PC USER」「暮らしとパソコン」など4誌を休刊。主要事業だった出版の整理にかじを切った。載せていた情報の多くをグループ会社「ITメディア」が運営するサイトに移していく考えだ。

 「PC USER」編集長だった田中さんも、ITメディア社に移ってサイト「PC UPdate」の編集長としての日々を送る。配信する内容は雑誌時代と変わらないが、「読者からすぐに電子メールで反響があり、緊張感がまるで違う」。サイトへの訪問者は今年3月の1ヵ月だけで延べ763万人。雑誌時代との差は歴然だ。

 同社で消費者向けの発信を統括する中川純一ライフスタイル・メディア事業部長は「相次ぐ休廃刊で、優秀なライターがネットの世界に逃げてくる好機」という。

 ネット情報は広告料のみで運営になるが、収支は黒字が続く。パソコンに関係のない企業からも広告依頼が来るようになったといい、「電子化の波は、他分野の雑誌にも波及する」とみる。

 出版科学研究所の村上達彦研究員は「雑誌全体が8年連続で部数を減らしている。ネットの影響は否定しようもない」と話している。(斉藤徳彦)
 
 
朝日新聞 2006年5月10日 朝刊 第2社会面 より