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[ 出版業界のトピックス ]

『ダ・ヴィンチ』にあやかれ!

映画が2006年5月20日に世界同時公開


●舞台を訪れるツアーテレビ特別番組「展覧会」イベント

 テレビの特別番組に、ツアー、展覧会やイベントも---

世界的ベストセラー小説が原作の映画「ダ・ヴィンチ・コード」が世界同時公開される20日を前に、関連ビジネスがにぎわっている。肝心の映画の中身は17日開幕のカンヌ国際映画祭での上映直前まで封印状態。中心が見えないまま、周辺は異常なほどの盛り上がり方だ。


●関連ビジネスで膨れる人気

 映画の人気にあやかろうと、フジテレビ系では公開初日の午後9時から特別番組「『ダ・ヴィンチ・コード』ミステリースペシャル」を放送する。「モナ・リザ」のあるパリのルーブル美術館、「最後の晩餐」で知られるミラノのサンタ・マリア・デレ・グラツィエ教会などを現地取材し、俳優の米倉涼子、堺雅人がダ・ヴィンチの謎に挑むといった内容だ。

 
 視聴率争いが激しいゴールデンタイムでの放送。企画したフジテレビ編集部の立松嗣章さんは「昨年3月にダ・ヴィンチの特集番組を放送した時は15.3%の好視聴率。映画公開の当日ですから、相乗効果で、さらに高い数字を期待しています。」と話す。

 「たけしの誰でもピカソ」(テレビ東京系)、「世界・ふしぎ発見!」(TBS系)などの通常番組の中でもすでに取り上げられている。

 旅行会社の動きも活発だ。日本旅行は昨年11月から今年2月にかけて実施した「ダ・ヴィンチ・コード 魅惑のヨーロッパ」に続き、4月から「映画公開記念」と銘打って作品の舞台であるパリ・ロンドンへのツアーを再開した。

 国内ツアーもある。行き先は、徳島県鳴門市の大塚国際美術館。世界の名画を陶板で原寸大に再現している同館では、「モナ・リザ」などこの作品に登場する絵を多数展示している。阪急交通社は大阪、名古屋、福岡など各地を発着地にして参加者を募集する力の入れようだ。JTBも関西発着の日帰りバスツアーを展開。ともに好評という。

 同館も独自に週2回、館内ツアーを実施中だ。連休中は予約で埋まった。同様に、国内で作品世界が味わえるとPRするのが、東京・六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで6月23日まで開催中の
「ダ・ヴィンチ・コード展」だ。東京・銀座のソニービルでも今月28日まで「『ダ・ヴィンチ・コード』ウィーク」を開いている。

東京都心は今、作品の「顔」でもある。「モナ・リザ」であふれかえっているのだ。


●原作ヒット880万冊

 人気は、2年前に邦訳が出た単行本から始まった。映画化が決まり、1年前に配給のソニー・ピクチャーズエンタテイメントが今年5月公開を明らかにすると、ここをめがけて関連ビジネスが一斉にスタートを切った。

 日本語の出版元の角川書店も映画公開に合わせ3月に文庫を出したところ、発売から約2か月で上中下巻合計で650万部に。単行本も上下巻合わせて230万部に達している。謎解き本などの出版も盛んで、「ダ・ヴィンチ・コード」を題名に含む本は10点以上。雑誌も特集を組み、別冊や増刊も出ている。このほか、ダ・ヴィンチ本人や絵画に光を当てた本もある。

 なぜこれほど受けるのか。ミステリーに詳しい中条省平・学習院大教授(フランス文学)は「冒頭に登場する死体がメッセージを発し、暗号となって想像力をかきたてる。人物描写も型にはまり分かりやすい。キリスト教の陰の部分の描き方はオカルト的でもあり、ドロドロとした感じは土俗的な横溝正史作品に親しんだ日本人には受けいれやすいのではないか」と話す。


●間口の広さが利点

  映画周辺が異様な盛り上がりを見せている理由として、月間誌「日経エンタテイメント!」(日経BP社)の小川仁志編集長は「作品の間口の広さ」を指摘する。

 「小説、映像、旅行、美術、と4つ楽しめる。『スター・ウォーズ』の人気は作品そのものに向かったが、『ダ・ヴィンチ・コード』は作品の外に楽しみが広がっている。」

 最近の映画のメガヒットの基準は興行収入100億円。今年はまだ到達した作品はないが、小川編集長は突破確実とみる。カンヌで上映されるまで露出を控えるなど、あえて見せないという宣伝方法も徹底している。

「映画の情報がないので、その分、人気にあやかろうとする周辺ビジネスの方に注目が集まる。それが結果的に映画の人気にはねかえってきている。」
 
 ヒットが確実な作品にあやかりビジネスが群がることで、ヒットの規模がさらに膨らむ。そんな最近の一極集中の構図を「ダ・ヴィンチ・コード」は映し出している。


※ダ・ヴィンチコードとは・・・

 米国の作家ダン・ブラウンが03年に発表した小説。ルーブル美術館館長殺人事件の犯人と疑われた宗教象徴学者と館長の孫娘が警察の追跡をかわしながら、館長が守ろうとしたキリスト教の秘密に迫る。フランス、イギリス各地が舞台になる。映画の監督はロン・ハワード。出演者はトム・ハンクスら。
(宮崎健二、斉藤勝寿)


朝日新聞 2006年5月17日 文化総合面より