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思わず手に取ってしまう装丁

書店で書籍を選ぶ時、カバーのデザインに引きつけられ、思わず手に取ってしまうことがあるかと思います。そんなカバーのデザインをする人がいます。それが、ブックデザイナーです。

ブックデザイナーとは、本の表紙や本自体のデザインを仕事にする人のことを言います。つまり、装丁家です。そんなブックデザイナーで有名な方が、鈴木成一さん(44歳)です。


---- 読売新聞 夕刊 2006年10月28日掲載より ここから -----------------

鈴木さんは、流行作家の小説から実用書まで数多くの装丁を手がける人気ブックデザイナーのひとりです。東京・渋谷区のオフィスで、まず見せてもらったのは「ゲラ」と呼ばれる、著者の文章が活字になって印刷された紙の束でした。

これを読み、わいてくるイメージを基に、カバーや帯、表紙、活字の書体や大きさ、使う用紙など、本全体のデザインについて方向性を決めていきます。

「ゲラは偏見を持たず、できるだけまっさらな気持ちで読む。作品の特徴や面白いところを手がかりに、それが見える形にしなければなりません」

中でも、読者が真っ先に見るカバーは、デザイナーの腕のみせどころ。たとえば、ホームレスや、アイドルに恋する男性などが主人公の連作小説『陰日向に咲く』(劇団ひとり著、幻冬舎、今年1月刊行)の場合。

作品を読むうちに子どものころ見たテレビドラマの、屋根の上でギターを弾くアイドルタレントのワンシーンが浮かんできて、その雰囲気を形にできないか、という発想から始まっています。それで、古い民家の2階から、憂いと優しさの混じったようなまなざしで都会を見下ろす著者を撮影しました。

タイトル文字は、「主人公の純真さを表現したい」と、当時小学2年だった長男に初めて毛筆を持たせ、素朴な文字に仕上げました。

1992年に会社を設立、今は8人のデザイナーと、年間6000~7000冊を手がけています。本作りは著者、出版社、印刷、製本会社などとのチームワーク。

締め切りや予算との戦いもあります。以前、直木賞作家の角田光代さんの小説『Presents(プレゼンツ)』(松尾たいこ・絵、双葉社)を担当した時、贈り物にまつわる内容に合わせ、花柄などをあしらった絵を構成要素にして、構造的には「カバーの下部を折り返して、裏面を帯にする。カバーと帯一体にする」という凝ったアイデアを提案。

それはカバーをはずして広げると、そのままプレゼント用の包装紙。しかし、本にカバーを巻く作業が手作業になり、時間と費用がかかるため、編集者と話し合いを重ねた末、初版本限定でこのアイデアは実現しました。

仕事の依頼を受けてから、本が完成するまでに2、3か月かかり、同時に10~20冊の仕事をすすめているので「頭の切り替えが大変」。でも、「本が売れるとなによりもうれしい。売れれば、『装丁も良かったね』と評価されますから」。

---- 読売新聞 夕刊 2006年10月28日掲載より ここまで -----------------


本を読むのは簡単ですが、本ができるまでのプロセスは実に時間や手間がかかっているものです。あなたが思わず手に取った書籍にも、実はそんなブックデザイナー、鈴木成一さんが手がけた書籍かもしれません。