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2025年 出版市場はどうなっているか 【 ドイツ編 】

「電子書籍は、紙の本の売上げを吸い上げてしまう」。そんな意見を聞きます。これらの不安要素は何も日本だけなく、世界各国も同じ不透明感を持っています。そんな一つドイツでは、どのような議論や予想がされているのでしょうか。『出版ニュース 2011年8月下旬号』(出版ニュース社)に、「書籍出版・販売業の将来をめぐって」といった情報が載っています。ご紹介したいと思います。
 

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『出版ニュース 2011年8月下旬号』(出版ニュース社)より
海外出版レポート
ドイツ
伊藤 暢章

書籍出版・販売業の将来をめぐって

去る6月初旬の「本の日」にベルリンでドイツ書籍業者協会主催により書籍市場の将来についての討論会が催された。まず討論のたたき台として、2025年には市場の状況がどうなっているかについて、協会の3つの専門委員会から55の「テーゼ」なるものが提示され、取次業者のマティアス・ハインリヒ、書籍販売業者のハインリヒ・リートミュラー、出版社のマティアス・ウルマーが、それぞれが抱いている将来のシナリオのプレゼンテーションをおこなった。


その「テーゼ」はかなり刺激的かつ挑発的なものであった。ごくかいつまんで要点だけを記せば、業界全体については、


●すべての印刷媒体は重要性を失う。書籍、雑誌、新聞の販売高はそれぞれ25%以上減少する。

●書籍の販路では店舗をもつ書店の売上高が激減する(31%減少)。

●全体としてはごく僅かながら成長できよう。

●印刷本の領域での売上高の減少は、(電子媒体の)いわゆるペイドコンテンツの領域の売上高の増加によって相殺される。

●ペイドコンテンツのコンテンツ提供者は必ずしも書籍出版社とは限らない。新規の提供者は在来の出版社のマーケットシェアを奪うであろう。


出版社については

●印刷媒体は、専門書と教科書などでは著しく重要性を失うが、その他の分野では比較的に良好に保たれる。

●在来の販売組織(営業部門)は新しい市場構造と生産構造を考慮して改善されねばならない。

●書店に営業努力が集中することはなくなる。

●取引条件のモデルは効率と収益率からみて厳密に検討しなおさねばならない。

●教育メディアと学術専門メディアの領域では電子的に提供することを進展せねばならない。

●マルチメディアのペイドコンテンツのコンセプト、プロダクション、マーケティングのノウハウを築き上げねばならない。


書店については

●販売量の減少により空いた売場のスペースを新しい商品で埋めねばならない。スペースについて新しいコンセプトの導入が必要になる。

●学校教科書の販売とそれに伴う決済業務は多くの書店から消滅する。その扱い量は減少し、印刷物と電子メディアを両方とも提供できる専門業者に集中することになる。

●専門書は、一般書店、専門書店、大学書店のいずれでもほとんどその棚から消える。

●大学など高等教育の教科書の販売量は激減する。

●買い手としての学生という顧客層は一般書店でも専門書店でも減少する。


取次店については

●取次業者は扱い量が激減することを見込まねばならない。

●コスト面に加えて書店数の減少、出版企業の集中化によって取次業者の企業集中化は一層先鋭化する。

●配送面ではコスト軽減が見込まれる。

●手数料は販売高、プロセスコストを考慮して見直さねばならない。などとしている。


このほか、書籍業者協会については、市場の縮小と企業集中化により会員数が減少し、会費収入が減少する。販売高は印刷媒体から電子的なペイドコンテンツへと移行するから、協会は残存する書籍市場のみを代表するのか、新規の市場参入者をも正規の会員として迎え入れるのか決定を迫られる。協会の使命(本の原則)も見直さねばならなくなる、という。


業界のロビー活動については、電子媒体においても著作権保護が確保され、価格拘束制度、付加価値税の軽減措置が適用されるよう働きかけることがますます重要になる、とされる。


ブックフェアについては、出版社の展示スペースの縮小、出展者数の減少、書店関係者の来場者数の減少が見込まれる。展示場の配置、展示方法を見直さねばならない、という。


業界の機関誌『ベンゼルブラット』の出版社および書店の購読者は4分の1ほど減少する。広告の数とその意義も減退する。複雑なペイドコンテンツの情報をどう取り込むか、その読者層をペイドコンテンツの利用者にまで広げられるかが課題となる。


職業教育学校のカリキュラムは改善されねばならないし、総合図書目録の在り方も問われている。


●議論は今後も継続

これらの「テーゼ」の提示のあと討議がおこなわれた。はたして印刷物の売上高減少は電子メディアの成長によって補填できるのかとか、書店の売上高31%減少の根拠は何か、そもそもこのテーゼはどんなデータをもとに作られたのかなど、議論は沸騰し異論も出た。


しかし、議論を煮詰めるにはベルリンでの時間は少なすぎた。出版社と書店はただちにそれぞれの専門グループ会議を設けて議論を続行することにした。また、業界の各方面からの意見は逐一業界誌にほじられており、業界の将来をめぐる熱い議論は当分止みそうもない。


●『出版ニュース 2011年8月下旬号』より
発行:出版ニュース社