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[ 出版業界について ]

電子書籍時代、出版取次に新たな役割はあるのか 寄稿:冬狐洞隆也氏

2008年から2011年までの、取次別書店数の推移を紹介したい。
 

取次別書店数の推移

取次別
2008年
2009年
2010年
2011年
トーハン
5,415
5,411
4,930
4,783
日本出版販売
5,142
4,970
4,917
4,808
大阪屋
1,169
1,221
1,151
1,169
栗田出版販売
872
824
798
767
中央社
466
457
438
435
太洋社
576
547
521
514
その他
951
1,291
1,302
1,302
合計
14,591
14,712
14,057
13,778

※アルメデイア調べ

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2016年には書店数が 1万店舖以下になる

書店の数は年々減少している。一方で、出店の店舗は大型化している。初期のころのトイザらスの出店と同じように、周辺の中小書店を廃業に追い込むつもりで出店しているのであって共存するとは夢にも思っていない。2014年 15年に続けて消費税増税が予定されているが 2016年には書店数が 1万店舖以下になることを断言する。

出版取次の役割2つが変わってきた

取次は帳合書店を疑似系列化し、商流・物流・情報流を一元化したビジネスモデルを構築してきた。市場拡大期( 1996年まで)において取次に求められていたことは多様な出版物を全国くまなくいきわたらせる「集荷分散機能」と「需給調整機能」であった。私企業であるので商品の選別も可能であったが、それもしなかった結果が今の不幸を生んでいる。というより、できなかったと言ったほうがいいだろう。


取次以外のルート開発も進んでいる

インターネットの進化と物流スピードの発達・ネット書店の拡大・中古本の扱い増加・図書館の無料貸し出しで、取次のビジネスモデルは変化が起き始めている。更に出版社の書店ルート以外の開発とネット通販の拡大により読者直接販売が多くなって取次以外のルート開発も進んでいるのが現状である。


書店は取次のビジネスモデルに依存することによって、小売店が本来持つべき仕入機能と能力を棚上げし、大多数の書店が自らの責任で本の仕入れをできない「考えない書店員」を作ってきた。原因は再販・委託の悪の両輪だ。


本を買う人だけが、“読者”ではない

新刊の出版物市場は意識的に「平等」を掲げて「公平」を忘れている。商品の回転率が悪くなっているのも「常備」という出版社から商品を借りて陳列する制度があるから。他の小売りでは信じられない制度を金科玉条のように守ってきた棚塞ぎ制度がダメになった原因ではないか。本は読まれるけれど書店では買わない人も存在することを忘れている。


本の需要の低下が現実となってきている。よって返品が増加し、出版社が発行部数を絞るようになると取次の送本システムが弱体化し、機能しなくなってくる。雑誌の物流の上に書籍が便乗しているので、書籍単独で流通できるコストは不足してくる。書店には注文した売れ筋商品が入荷しないか、遅れて販売機会を失うほど後で入荷するような状況が続くのは書店にも原因がある。


「紙の本」はなくなり、「電子書籍」のみになる?

電子書籍が読まれているようだ。しかし、スマートフォン・タブレット端末は他のアプリケーションに利用されていて、実際、電子書籍を見る人は期待するほど多くは増加しないだろうと予想する。電子書店はいずれ数社に集約され、他は淘汰されていくだろう。その後、本格的な電子書籍の拡大が期待される。とはいえ、古いメディアが壊れると言うことは過去にもなかった。インターネット以前のラジオ・テレビ・映画は今でも存在する。本のルートが壊れると言うことはありえない。需給のバランスが崩れているだけである。取次という企業の規模は小さくなろうとも無くなりはしない。


出版取次の課題 2要素

現状、取次の売上の基本は 2つしかない。「帳合変更」と「新規出店」だ。他の運送会社と同じ物流会社である。その証拠に、本の値段に関係なく本の重量で書店に届けているので、他の商品と何ら変わりはない。これからは、物流の速さと正確さが要求されるが、取引先書店の立地条件をつぶさに調べマーチャンダイジングを行い、“返品前提の新刊委託を減らし”、“書店が発注能力を高めること”が取次の課題。生産年齢人口減少と少子化、更には消費税増税が迫ってきていることを考えると、あまり改善の時間的余裕はない。


寄稿 : 出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏