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[ 出版業界について ]

図書館から文庫が消えたら?? 「図書館で文庫の貸し出しをやめて」と出版社の社長が訴えたことについて考える

朝日新聞の2017年11月21日(火)号のオピニオンVoice声100年欄に掲載された「図書館から文庫が消えたら」の声について、複数の方の意見が紹介されました。どのような声があったのでしょうか。ご紹介したいと思います。
 
 

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図書館から文庫が消えたら

主婦 K村○○子 (広島県 58)


文芸春秋の社長が先日、全国図書館大会に出席して「できれば図書館で文庫の貸し出しをやめてほしい」と呼びかけたという。文庫本の売り上げ減少を問題視しての発言らしい。


私は図書館で文庫や新書を借りることが多い。理由は重くないことと、文庫コーナーに行けば1カ所で色んな分野の本が選べることだ。単行本は人気のものだと予約人数が3桁になる時もあり、多くの人の手に触れて必ずしも状態が良いわけではない。だから初めから文庫を目当てに行くのである。


最近は本の内容をすぐ忘れてしまうので、興味を持った部分はノートにメモしながら読む。中には面白すぎて全部写したいような良書があり、そういう本は書店で買うことにしている。図書館で知った本を書店で買うことが多い私にとって、図書館は広告みたいな役割を果たしているとも言える。時には古い良書を見つけるが、欲しくても新刊書店で手に入らない場合はネットに頼ることもある。


果たして図書館から文庫がなくなったら、市販の文庫が売れるようになるだろうか。もしかすると、私は今より本を買わなくなるかもしれない。
 
 
 

せめて文庫本は書店で買って

無職 K林○○史 (東京都 81)


私は8年ほど前、親の代から続いた駅前の小さな本屋を閉じました。活字離れで売り上げの減少が続き、先のことを考えて無理だろうと決断しました。


中小の書店にとって、安価な文庫や新書、雑誌が、売り上げに占める割合は大きい。文芸春秋の社長さんの要望に納得します。全国の書店は大歓迎と思います。


私も長年、図書館への納入を続けてきました。でも、心の中では「図書館がなかったら、我が店で買ってくれたかもしれない」と思っていました。気楽に立ち読みできる街の本屋が消え、出版業界も不況が続いています。せめて文庫本は借りずに、買ってくれる読者が増えれば、街の本屋も出版社も消え去ることは免れるかもしれません。


活字文化を守るためにも、図書館側はいま一度、税金の使い方を考えてほしいと思います。
 
 
 

街の本屋さんに申し訳ない

主婦 S田○子 (奈良県 44)


出版社の社長が、文庫本は図書館で貸し出ししないでほしいと述べた、というニュースを聞き、私は作者、出版社、街の本屋さんに申し訳ない気持ちになった。


私は読書が好きだが、買う余裕がないので、図書館をよく利用している。図書館はなくてはならない存在である。しかし最近、疑問に思うことがある。図書館で最新刊が読めることだ。そこまで図書館利用者にサービスする必要があるのだろうか。


私のように図書館で借りられるなら読みたいという人もいるだろうが、買ってもいいけど、図書館でただで借りられるから買わないという人も多数いるのではないか。それは、街の本屋さんの客を奪っていることになるのではないか。図書館は新刊や文庫本の購入について考えてみてほしい。
 
 
 

本作った人への対価 抵抗ない

無職 S藤○宏 (広島県 60)


出版社さんの気持ちは理解できる。精魂込めて作った本が多くの人に無償で読まれては、さぞかしやるせないだろう。


となれば、いっそ図書館の貸し出しを有料にしたらどうだろうかと思いネットを見た。すると、「図書館法」なる法律があって、公立図書館では貸し出しなどに対価を求めてはいけないと規定されていた。こんな法律があるとは露知らず、知っていれば小説「図書館戦争」の読み方も変わったのにと思い、愕然とした。


とはいえ、原作者を含め本を作る作業に正当な対価が支払われなければ、いずれ本は無くなってしまう。私も本を作った人になにがしかの対価を払うことに抵抗はない。図書館法は1950年に作られたもので、現代のネット社会に即しているとは言い難い。読者、作者、出版社がいずれも納得できる「三方一両損」のような方策はないものだろうか。
 
 
 

読者の視野広げてこそ

糸賀雅児・慶応大名誉教授(図書館情報学)


文庫本の貸し出しをやめたところで、売れ行きが伸びるとも思えません。ただ、公立図書館は税金で運営されています。教養書や専門書など公共の利益につながり、図書館が買い支えるべき他の出版物もありますから、文庫本の購入や貸し出しの優先順位の見直しはあってよいでしょう。


一方、利用者は文庫本に限らず、本という商品を入手したいなら、お金を払うか(書店で購入)、時間を払うか(図書館で順番待ち)すべきです。まさに「時は金なり」なのです。


実証的なデータの裏付けがない議論は、これまでも水かけ論に終わってきました。今後は、出版社・書店と図書館が連携してイベントやフェアを開催し、読書人口の減少を食い止める方がそれぞれの顧客の裾野を広げる意味で建設的だと思います。
 
 
 
※朝日新聞  2017年11月21日(火) オピニオンVoice声100年より作成
※個人名は、最後の糸賀雅児・慶応大名誉教授を除き、個人を特定しづらいよう変更してあります。
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